千歳・大石法律事務所は横浜・関内の法律事務所です。

横浜・関内 千歳・大石法律事務所

(これからお話しするストーリーは手続を説明するためのフィクションであり、「ミナト木材加工株式会社」も特定の会社を想定したものではありません)

イントロダクション

A氏の場合①

A氏の場合②

A氏の場合③

A氏の場合④

A氏の場合⑤

A氏の場合⑥

A氏の場合⑦

A氏の場合⑧

A氏の場合⑨

A氏の場合⑩

A氏の場合⑪

A氏の場合⑫

12 破産手続の申立

A氏は、従業員に解雇の通知をしたあと、経理担当の役員とともに社長室に戻り、しばらくしてから弁護士が部屋にやってきた。

「従業員の解雇は滞りなくできましたか?」

「どのように受け止められたかは分かりませんが、用件だけは伝えることができました」

「私も心配だったので、いつでも会社に行けるように近くで待機していたのですよ。とりあえず混乱はなかったようですね」

「混乱はありませんでしたが、正直つらかったです」

「心中お察しいたします。でも、そのような状況でも、社長としての職責を全うできたのですよね。尊敬いたします。」

A氏には涙があふれた。しかし、涙を拭く間もなく、A氏にはやらなければならない仕事があった。

まずは、弁護士から指示されたとおり、受任通知を送付する金融機関や売掛先等の債権者の整理をし、未払公租公課を抽出した上で、それをエクセルのファイルにまとめた。

また、集金が済んでいない買掛先のリストもファイルにまとめた。

従業員の一覧表や、出勤台帳等の書面もパソコンから打ち出した。

経理担当の職員に依頼し、従業員の離職票の作成にもとりかかった。

次に、工場に移り、置かれている什器備品、機械の目録を作成した。多くは決算書に記載のあるものだったが、中には記録から漏れている機械もあり、その特定には苦労したが、困っている社長を助けようと、少しずつ従業員が手をさしのべてくれたお陰で、何とか、その日のうちに目録の作成が完了した。

その他、金庫から、建物の賃貸借契約書や会社名義の預金通帳、代表者印等の印鑑類を取り出した。

パソコンは、リース契約であったので、このままではリース会社にパソコンが回収されてしまい、データが消えてしまう虞があった。そのため、経理担当の従業員がマニュアルを片手に、会計ソフトのデータを取り出す作業を行った。

一通り書面の整理をしたあと、A氏は取締役である妻に社長室に来て貰った。

そして、妻に、本日会社の営業を終了すること、破産の申立を行うことを改めて伝え、決議をした上で、取締役会議事録の作成を行った。

翌日、整理した書類や印鑑等の重要書類、議事録等を持参の上で、経理担当の従業員を伴い再び弁護士事務所に向かった。

弁護士と協議の上で、破産の申立は2月20日に行うこととし、2月1日には、各債権者に受任通知を行うこととした。

その後、弁護士とは、連日連絡を取り合いながら、破産手続開始決定申立書やその付属書類、証拠書類等の準備を行った。

A氏はこれまで精神的に行き詰まっていたが、弁護士から言われたとおりに書面の準備を行い、連日弁護士と打合せを行い、質問などに答えたりするうちに、少なくとも、バックギアからニュートラルくらいには心の切替ができるようになっていた。

当初は、書面なども色々と作らなければならないのではないかと思っていたが、大半の書面は弁護士と勤務弁護士が作成してくれるので、ほんの一瞬ではあるが、会社のことから離れることができることが嬉しかった。

A氏は僅かではあるが心の余裕ができたので、知り合いに電話をするなどして、従業員の再就職先などの情報収集なども行うようになった。

A氏としては特別な感情をいだくこともなく、 申立書の提出予定日である2月20日が到来した。

「これから、裁判所より破産手続の開始決定が出ます。そして、裁判所より、破産管財人が選ばれます。実はここからが後半戦になります。気を引き締めてやりましょう。」

破産管財人によっては、厳しい追及がなされる場合があるとも噂で聞いていたので、A氏としては、その点だけが不安であった。

(前半終わり)。