千歳・大石法律事務所は横浜・関内の法律事務所です。

横浜・関内 千歳・大石法律事務所

(これからお話しするストーリーは手続を説明するためのフィクションであり、「ミナト木材加工株式会社」も特定の会社を想定したものではありません)

イントロダクション
A氏の場合①

A氏の場合②

A氏の場合③

A氏の場合④

A氏の場合⑤

A氏の場合⑥

A氏の場合⑦

8 家族への説明

A氏は事務所を出た後、まっすぐ自宅に向かった。

A氏は家族に説明すべき内容を頭の中で整理した。

会社の資金繰りが月末でショートする可能性があること。このままでは、会社の破産も検討しなければならないこと、等々。

自宅に着くと、いつも通り妻が玄関で出迎えてくれた。

いつも通りの帰宅風景。

「ただいま」

「おかえり」

娘はまだ帰宅していないようである。

A氏は、リビングのソファに腰を下ろした。妻が近づく。

異変を察した妻が「どうしたの?」と声を掛けた。

「実は、、」

「え?」

「会社がまずいんだ」

「まずいって?」

「会社がつぶれそうなんだ」

「どうして?」

「資金繰りが、、」「資金繰りがショートしそうなんだ」

「え?」「どういうこと?」

「月末まで持たないかもしれない、、」

「どうして?」「だって先月だって、ちゃんと従業員に給料は払っていたよね?」「去年だって、従業員を連れて三渓園でお花見をしたよね?」「それで、どうして?」

「話せば長くなるけど、客先から売掛金を支払わないという通知があったんだ。」

「銀行からお金を借りたりとかできないの?」

「その可能性はあるけど、客先は大口のお客さんで、取引の停止を通告されてる。」「それに、、」

「それに?」

「税金の滞納もかなりある」「差押を受けるかも知れない」

「差押を受けたらどうなるの?」

「銀行取引を続けていくことは難しい。完全にアウトだ」「そうなるまえに、、」

「そうなるまえに?どうするの?」

「従業員や家族のことを考えると、、」

A氏は少し口ごもったが、思い直した。これは、従業員や家族、そして債権者のためのことなんだと。

「いまこの時期に破産するしかないと思ってる。」

妻は少し驚いた様子であったが、真顔で、

「仕方がないんだよね」「それなら仕方がないじゃない?」「あなたが決めたことなんだから」

A氏は妻に感謝した。拍子抜けする自分に安堵した。

「今後のことだけど、会社の債務について僕が連帯保証人になっているよね?」

「で、その連帯保証債務について、自宅に抵当権が設定されている」

「今の自宅の価格では連帯保証債務は支払えない」「つまり、、」

「つまり?」

「僕も破産しなければならないと思う」

さすがに妻も驚きを隠せなかったが、経営者として、責任を取る場面であることくらいは理解してくれたようであった」

「あなたが破産しなければならないことも分かったけど、これからの生活はどうするの?大学の費用は?」

「どこかで働かなければならないよね。しばらくは破産の準備をしなければならないので、中々難しいけど、破産手続の申立をしたらすぐにでも仕事を探しに行くから、、」

A氏は破産したあとのことについてはよく考えていなかったので、妻からの問いかけに動揺した。

「でもこうなったら何とかしていくしかないよね?私もこれまでのことで色々とあなたに感謝しているから、その恩返しといっては何だけど、働こうかな」

A氏は妻の言葉で少し冷静になった。それで自分の強みは何なのか、改めて考えてみようとした。

自分の強みとは、やはり木材加工か?

木材加工と言えば、いくつか取引先のつてがあるな。それなりに多くの関係者を知っていることも強みだな。業界の慣習も分かってる。

A氏は少し前向きな気持ちになった。気を取り直して、妻に話を続ける。

「破産をしたら、おそらく自宅を手放さなければならない。当面の生活費の工面も必要だ。また改めて弁護士に相談に行くので、今後の方向性について詳しく話を聞いてくるからね」

妻は小さく頷いた。

次に続く