千歳・大石法律事務所は横浜・関内の法律事務所です。

横浜・関内 千歳・大石法律事務所

前回までは離婚調停の初日についてお話しましたが、今回は、次回期日までの間の過ごし方についてお話しします。
まず、調停は連日開かれるというわけではなく、おおよそ1か月くらいの間隔で開かれます。
ただ、裁判所の夏期休廷期間や出席者の都合、あるいは調停室の空き状況の関係で、2か月以上調停の間が空いてしまうこともあります。
このように調停の制度上、期日と期日に1か月以上の期間が空いてしまうことが多いので、その間何をすればよいのかが問題になるわけです。
まず、よく質問されるのは、調停期日間に相手方本人と直接話をしてもよいか、というものです。
これについては、ケースバイケースですが、特に代理人弁護士がついている場合は、言い分は代理人の弁護士を通じて伝えるのが通常であり、あるべき姿です。
したがいまして、この場合は当事者本人同士で話し合いをするのは避け、ここはプロの代理人に交渉を委ねるべきでしょう。
例外としては、子どもの面会交流の日程調整のような、当事者同士で直接やり取りする必要があり、かつその弊害が少ない場合です。
ただこの場合も、代理人の弁護士と直接のやり取りの可否及び内容について十分に打合せをしておくことが必要です。

では代理人弁護士がついていない場合は、どうでしょうか。
これもケースバイケースですが、一般的には(特に離婚を求めている立場の方であれば)、直接の話し合いは避けた方がよい場合が多いと思います。
といいますのも、離婚の大多数が協議離婚で終わっている状況下で、あえて離婚調停が申し立てられているのは、当事者同士の話し合いでは有意義な結論を得ることができなかったからであり、話し合いが難しいというのは、調停が起こされた後であっても同じだからです。
もう少し具体的に説明しますと、離婚調停が起こされたということは、要するに、話し合いをしようとしたけれども、相手方が離婚自体に応じてくれない、であるとか、親権で争われている、といったように、当事者間で離婚そのもの、あるいは離婚の条件について妥協ができない部分があったからですよね。
ということは、これを逆に言えば、直接当事者間で話し合いをして意味のある結論を得ようとするならば、折り合いのついていない部分について、どちらかが大きく妥協をしなければなりません。
もちろん、そのような妥協ができないから調停になってしまったわけですので、直接当事者が話し合いをしたとしても、結論が出る可能性は低いと言わざるを得ないわけです。
むしろ、妥協の難しい話を契機として、お互いの感情的な対立が先鋭化し、冷静な話し合い自体ができない場合も考えられます。
要するにリスクが大きいのです。
したがって、あくまでも私の経験を前提とした感想ではありますが、折角調停の中で、中立的な第三者を挟んで冷静な話し合いをすることになったのですから、当事者において対立がある部分については、仲介者のお知恵を拝借する意味でも、当事者同士の直接の話し合いではなく、調停の中で話をするべきであると考えます。
なお、それとは別に、面会交流の日程調整といった事務的な問題については、当事者間で話し合いをしなければならない場面もでてきます。これは代理人がついている場合と同じ理屈です。
このように、調停には制度上、期日の間隔が空いてしまうことが多いので、焦りからか、申立人と相手方が直接メールや話し合いで進展を図ろうとしまいがちですが、調停が起こされた経緯からして、冷静に有意義な話し合いをすることは困難です。
ですので、具体的な話し合いは調停で行いましょう、ということで、どうしても必要な場合であるとか、何か交渉進展の具体的な確証がない場合は、無理して当事者同士で話合うべきではないでしょう。
もしも調停期日の間に交渉の進展を目指すというのであれば、やはり代理人の弁護士を選任した上で、相談しながら慎重に対応していくべきです。


「これではなかなか話合いはできませんね」
このような言葉を調停委員から言われるとしたら、これは調停不成立(不調)のサインです。


1 調停不成立になる場合
これまでお話ししてきましたように、離婚調停は、あくまでも当事者の合意形成を図る手続ですから、例えば相手方が離婚に一切応じる意思がない場合は、初回の調停期日の段階で、話し合いをしても意味がないと判断され、調停が不成立になる場合があります。
わざわざ調停のために家庭裁判所に来て、不成立というのは無駄足のような気がしますが、早い段階で不成立というのは、ちらほら見られるものです。


2 調停前置主義
なお、早期の不成立というのは、「調停前置主義」という制度も一つの原因となっています。
つまり、我が国の法律では、離婚で揉めた場合、いきなり裁判を起こすことはできません。
まず家庭裁判所に調停の申立を行う必要があります(家事審判法18条1項)。
裁判を起こす前に調停を起こさなければならない、という制度のことを「調停前置主義」、「調停先行主義」といいますが、これは要するに離婚問題は家庭の問題ですから、公開の法廷で争う前にまずは話し合いの機会を設けるべきだ、との要請に基づくものです。
ただ、これは逆に言えば、離婚問題で対立が激しく、裁判によらなければ解決ができない場合でも調停を起こさなければならないことを意味しますので、時に形だけ調停を開いてすぐに不成立で終了という場面が生じることになるのです。


3 次回の期日が指定される場合
さて、これまで調停不成立になる場合についてお話ししましたが、それ以外の場合は、もう少し話し合いを続けてみましょうということで、次回の期日が定められることになります。


(1) 次回期日の定め方期日の定め方ですが、申立人、相手方と調停委員との話し合いの中で、次回期日の調整の話が出てきますので、まずは、その場に立ち会っている当事者との間で、次回期日の候補日を決めます。
そして候補日が定まったら、調停委員の先生が、他方当事者が待機している待合室に確認しに行くなどして、都合を確認します。
その後(他方当事者に確認する前のこともあります)、調停室の空きを確認して問題がなければ、次回期日が決定です。


(2) 次回期日に向けての確認
次回期日が定められますと、次は今回の調停の内容の確認と次回の調停期日で話合われることの確認がなされるのが通常です。
その内容はケースバイケースですが、例えば
「次回は親権について話し合いたいので、実際に監護している方は監護状況を説明できるようにしておいてください、監護をしていない方は、具体的な受入態勢を説明できるようにしてください」
であるとか、
「次回は少なくとも婚姻費用については合意したいので、お互いに○年分の源泉徴収票を持ってきて下さい」
といったようなものです。
少しシビアな話になると、
「次回までに離婚を認めてもいいかどうか、考えてきて下さい」
といった宿題が与えられることもあります。
このように調停期日のなかで次回の話し合いの内容や宿題について確認されるのは、調停はおおよそ1か月1回のペースで開かれることが多いので、話し合いが空転してしまうと、調停の成立がそれだけ遅れてしまうことになるからです。
言い換えればその日の調停での話し合いの成果が反映されるとも言えるわけで、調停当事者としては、自分の話がちゃんと聞いてもらえたかどうかのメルクマールにもなるわけです。
逆に自分の話が伝わっていない、与えられた宿題が難しい、できれば交通整理をして欲しい、ということになった場合は、弁護士に代理人になってもらうことを考えなければなりません。


離婚調停が始まり、いよいよ調停委員から事情を聞かれる段階に入りました。
さて、何が聞かれるのでしょうか。
なお、これからお話しすることは、夫婦関係調整調停(離婚)が申し立てられたことを前提としております。
離婚に関わる調停はその他にも例えば婚姻費用分担調停や、年金分割の割合を定める調停、親権を定める調停、慰謝料請求の調停、離婚後の紛争調整の調停など色々ありますが、今回は夫婦の一方(申立人)が、離婚を求める典型的な調停を前提としておりますので、ご了解下さい。
さて、離婚調停では、最初に申立人から事情を聞かれるのが通常です。
聞かれる内容としては多岐にわたりますが、典型的なところとしては、
① それまでの婚姻生活の内容
② 婚姻生活の不満の内容③ 離婚を決意するに至ったきっかけ
④ 現在の生活状況(例えば別居中か同居中か)
⑤ 相手方から婚姻費用は支払われているか、あるいは相手方に婚姻費用を支払っているか
⑥ 今回の調停に至るまでに相手方との間でどのような話がなされたか、これに対する相手方の回答は何だったか
⑦ 今回の離婚に関して相手方は同意しているか
⑧ 離婚後の婚姻生活についてどのように考えているのか
⑨ 子どもがいる場合、親権についてどのように考えているか、具体的な養育の方針は?
あたりになります。
もちろん、始めからこれらの全てが聞かれるとは限りませんし、それこそ事件によって聞かれる内容も変わってくるわけですから、あくまで目安として理解して下さい。
ただ、一つ注意して頂きたいことは、調停はあくまでも話し合いの場であり、闘いの場ではない、ということです。
調停の代理人として立ち会っていますと、中には調停を完全な戦闘の場と割り切り、始めから聞かれることを予想し、詳細な書面を作成してそれをはき出す当事者がいらっしゃいます。
しかし、調停委員も相手方も人の子ですから、このように前掛かりで話をされると、やはり少し引いてしまいます。
交渉の技術には色々なものがありますが、少なくとも調停の場では、私の経験上、がむしゃらに説明してもうまくいきません(もちろん、私自身も代理人として説明に時間をかけたりしますが、それはコントロールされた態度であり、ここで詳しく説明をすることが、交渉の進展に資するとの目算があってのことです)。
あくまでも調停委員は申立人である本人の素の姿を見たいと思っているし、申立人の話し方や話す内容から両当事者の中に存在する問題点をくみ取っているわけですから、そういう空気を感じ取り、適宜微調整をしながら、自分の話を聞いて貰うことが必要なのです。
戦うという気持ちがあることは否定しませんが、あくまでも交渉の場であるという視点は失わないことが大事であると考えます。
さて、調停委員からの事情徴収はおおよそ30分程度ですが、初回についてはもう少し長くなるかも知れません。
待ち時間も含めて長丁場になりますので、精神的に疲弊しないよう、自己コントロールをすることも必要ですね。


調停初日。
一番緊張する瞬間ですが、さて、調停ではどんなことが行われるのでしょうか。
すでに、離婚と年金分割⑤(調停や審判等を利用した分割割合の決定)でも簡単に調停手続を説明しておりますが、今回はもう少し具体的にお話しすることにしましょう。

1 家庭裁判所に着いたら何処に行けばいいのか
まず、家庭裁判所で調停が行われるといっても、実際調停がどの部屋で行われるのか、調停が行われるまでどこで待っていればいいか、わかりませんよね。
そこで、特に調停初日は、家庭裁判所に行ったらまず、調停を担当している書記官室に行くことが重要となります。
その書記官室が分からない場合は、受付があればそこで聞いてもいいですし(横浜家庭裁判所の本庁には入り口入って左手に受付があります)、近くの事務室で聞いてください。
ちなみに東京家庭裁判所や横浜家庭裁判所のような大規模、中規模庁では、調停係が複数ある場合があります。
この場合は、事件番号(「平成○○年(家イ)○○○○号」という体裁で書かれている番号)を伝え、担当調停係を確認することが必要となります。

2 書記官室で伝えるべき内容
さて、調停を担当している書記官室では、まず名前と調停開始時間を伝え、さらに自分が申立人の立場なのか、相手方の立場なのかを伝えて下さい。
そうすると、通常は、「待合室○番でお待ち下さい」、「申立人待合室でお待ち下さい」、「相手方待合室でお待ち下さい」など、待機場所を指示されますので、指定された待合室に向かいます。

3 待合室の雰囲気
待合室ですが、一般的には居心地のいい場所ではなく、狭い空間に所狭しと長いすが並んでいる様な場所です。
少し古びた病院の待合室をイメージして頂けるとよろしいかなと思います。
待合室ですが、小さな支部のようなところでは自分一人しかいないこともありますが、一般的には先客がいます。
調停の当事者ですから、皆さん色々と考えるところがありますので、余り明るい雰囲気ではありません。お互いに干渉しないのがマナーですね。
なお、待合室でよく話す人がいるとすれば、その多くは代理人です。やはり落ち着かない場所なので、雑談をしたりして依頼者である当事者の気持ちを楽にしてあげようとしているわけです。

4 調停委員からの呼び出し
さて、待合室で暫く待っていると、調停委員が時間になると呼び出しに来ます。
最近はプライバシーの問題もあるので、番号で呼ばれたり、小声で呼んだりするところもありますね。
この点に関し、トイレにたまたま行っていて呼び出しの時に待合室にいなかった場合はどうするのかしら、との相談を受けることがありますが、余り心配はいりません。
1回目にいなくても、しばらくたってからまた呼び出しに来るのが通常ですし、いつまでたっても呼び出しに来ない場合は、もう一度書記官室に行って調停委員に連絡をとってもらえばよいのです。

5 調停室の雰囲気
さて、調停委員に呼び出されて、調停室に向かいます。
調停室は一般的には、小さな会議室くらいの大きさで、長机と数個の椅子があるくらいのいたってシンプルなものです。

6 調停初日での最初のやりとり
調停室に入ると、調停委員の先生が座って待っています。
その他、初回の場合は始めから審判官(裁判官)が向こう正面の中央に座っていることがあります。
これは、調停はあくまで主として審判官と調停委員とで構成される「調停委員会」によって行われることになっておりますので、特に調停初日の場合は、けじめの意味で審判官が手続の進行についての説明をすることがあるからです。

 

調停手続の進行についての説明ですが、おおむね以下のような事項について説明されます。
① 調停は、調停委員会(審判官と2名の調停委員)が担当すること
② 調停は、裁判とは異なり、あくまで話し合いによって問題を解決する手続であること
③ 調停では自分の意見を率直に調停委員会に伝えて欲しいこと
④ 調停はあくまでも話し合いによる解決を目指す手続なので、互いに譲れるところがあれば譲り合った上で、双方にとって納得の行く解決を探っていく必要があること
⑤ 調停は、通常は、まず申立人から話を聞き、その後相手方から話を聞くというかたちで入れ替わりで行われること、それぞれの当事者から話を聞く時間はおおよそ20分から30分程度であること
⑥ 調停に要する時間としてはおおよそ1~2時間を予定していること
⑦ 調停は1回で終了するわけではなく、解決のためには複数回開かれるのが通常であること
⑧ 調停は非公開の手続であり、調停委員はそれぞれ守秘義務があるので、話した内容が外部に漏れることはないから、安心して話して欲しいこと
⑨ 当事者間で合意ができた場合は、調停委員会で内容を検討した上で、最終的には審判官(裁判官)立会の上で、調停が成立することになること
⑩ 調停が成立した際に作成される「調停調書」は、裁判の判決と同様の効力があり、場合によっては強制執行も可能になること
⑪ 調停は取り下げが可能であるし、不成立の可能性もあること
⑫ 調停は不成立の場合は、審判や裁判といったその後の紛争解決方法が用意されていること。
ただ、このような説明が全て過不足なく行われるとは限りませんし、調停の説明書が配られた上で、それを読んで下さい、というかたちで簡潔に説明される場合もあります。
また、代理人の弁護士が付いている場合は、説明が省略されるのが通常です。
ただ、この説明には、いくつも重要なことが書かれているので、できれば十分に理解した上で調停に臨んでもらいたいものですね(なお、当コラムでも折に触れて説明する予定です)。
それでは、次回は、調停初日で行われるやりとりについて説明いたします。


離婚調停の手続について引き続き説明いたします。
今回は、調停期日の定め方、調停が行われる場所の事前調査についてです。
なお家庭裁判所における手続の流れや運用は、例えば家庭裁判所の建物の構造やマンパワー、運用、極端なことを言えば家庭裁判所の所長の個性などによっても変わってきます。
これから説明する内容は、あくまで一般的なものですので、ご了解下さい。


1 調停期日の変更
(1) 調停期日の指定
まず、離婚調停が申し立てられると、通常申立から3週間ないし1か月前後を目処として調停期日が定められます。
ただ、この調停期日がいつ指定されるかについては、かなりばらつきがあり、例えば私の経験した例では、調停申立から第1回の調停期日まで3か月以上期間があいてしまった事例もありました。
裁判所の夏季休廷期間や調停室の空き状況などによって変わってきますが、余りに期日指定が遅れているようなら、一度家庭裁判所に問い合わせてみるといいでしょう。
調停期日は、通常、午前の枠か午後の枠のどちらかで開かれます。
出頭時刻ですが、午前の枠であればおおよそ午前10時から午前10時30分ころ、午後の枠であれば午後1時から午後1時30分ころです。
なお、出頭時刻が申立人と相手方とで異なることがありますが、これは当事者同士が裁判所内で直接会わないようにとの裁判所の配慮です。
特にDV(ドメスティックバイオレンス)の事案などでは、待合室の場所や出頭時間に至るまで、事故が起きないように裁判所はかなり神経を使ってくれます。
いずれにしても、調停申立の際に、裁判所に対して「相手方本人と会いたくないので配慮をお願いしたい」と伝えておくことが重要です。
(2) 都合が悪い場合
さて、調停が申し立てられると、調停期日が定められますが、相手方にとっては一方的に期日が定められ、呼び出されることが多いので、その期日に出頭できないこともあります。
この場合は、やはり裁判所に連絡して調停期日を改めて調整して貰うことを考えて下さい。
といいますのも、調停は当事者の話し合いの手続であり、原則として当事者が出頭することが前提とされていますので(本人出頭主義、家事審判規則5条1項本文)、裁判所も当事者双方が出頭できるように配慮してくれることが多いからです。
この点が通常の訴訟手続と異なるところです。
なお、調停期日の変更の申し出それ自体が裁判所の心証を害しないか、心配される方もおりますが、杞憂です。
(3) 調停期日の変更が認められない場合
ただし、調停には調停委員の都合や調停室の空き状況なども関係してきますので、常に期日変更が認められるわけではありません。
「とりあえず、申立人本人から話を聞きますので、次回(第2回調停期日)以降の都合のよい日時を教えて下さい」
とあっさり言われて調停期日の変更が認められない場合もしばしばありますので、必ずしも思い通りにならない場合があることは予め知っておいて下さい。
なお、調停では思い通りにならないことが多々あります。調停期日の変更が認められないことくらい序の口ですので、ここでいらいらしないことが大事です。


2 裁判所の場所の把握
さて、ようやく定まった調停期日ですが、おそらく多くの方にとって余りご縁のない家庭裁判所、場所もうろ覚えのことが多いですよね。
裁判所の場所は例えば丘の上であったり、市街地から遠く離れていることもありますので、長年の土地勘だけではどうにもなりません。
それで調停期日に遅刻するようでは目も当てられませんね。
ですから家庭裁判所の場所については、予め地図などで確認しておくことが必要です。
実は私も裁判所の場所がわからず迷ったことがあります。そのため、それ以後は、やむを得ず、保険でタクシーを利用したりするのですが、タクシーの運転手も「地方裁判所」と「家庭裁判所」の違いが分からないことがあり、一度、とんでもないところに連れて行かれたことがあります。
その時は30分くらい余裕があったので、事なきを得ましたが、冷や汗をかいた記憶があります。
皆さんも注意して下さい。
また裁判所といっても、本庁と支部があります。
例えば、神奈川県の家庭裁判所も、横浜市にある家庭裁判所の本庁のほか、川崎と相模原、横須賀、小田原にそれぞれ支部があります。
間違って支部なのに、本庁に行ったりしないように注意して下さい。
以上、調停に際して注意すべき最初の関門である、調停期日と裁判所の場所の把握、について説明しました。世の中に色々と調停に関する情報が出回っていますが、案外調停期日や調停の開催場所といった基本的なことについての説明が足りないような気がいたしましたので、あえて本コラムで取り上げてみました。


「出るところに出て話合いましょう」
という捨て台詞があります。
この「出るところ」とは何処なのか、については諸説がありますが、争いのないところとしては裁判所があげられるでしょう。
この「裁判所」という場所は、私のような職業の人を除けば、一般的にはそう何回も行くところではありませんし、そもそも裁判所で行われる手続についても意外に知られていません。そのため、一般の方にとって、裁判所では「何をされるのか」という漠然とした不安感があるため、「出るところ」つまり「裁判所」をちらつかせるだけで立派な捨て台詞となり得るわけですね。
これは逆に言えば、「出るところ」ではどのようなルールで、どのような手続が行われるのか、上手に対処する方法は何か、といった前提知識を予め持っていれば、「裁判所」のある種の「得体の知れなさ」が払拭されますので、安心して「出るところ」という言葉を受け止めることができるわけです。
そこで今回は裁判所の手続の一つである「家事調停」その中でも件数が多い「離婚調停」について説明いたします。
なお、これからご説明する内容は、私がこれまで経験した内容を元にしておりますので、地域によっては運用であるとか、考え方などが異なるところがあるかもしれません。その点はご容赦ください。


1 離婚調停とは
さて、離婚調停ですが、正確には「夫婦関係調整調停」といいます。
この夫婦関係調整調停は、大きく分けて「夫婦関係調整調停(離婚)」と「夫婦関係調整調停(円満)」の2つに分けられます。
離婚を求めるのに、なんで「夫婦関係調整」なんだ、と思う方もいるかも知れませんが、調停はあくまでも話し合いの場ですので、話し合いの結果離婚をしないという結論に至る可能性もあります。
そのため、「夫婦関係調整」という中立的な言葉を用いるのです。
もちろん、それでは目的がはっきりしませんので、やはり最後には(離婚)(円満)という言葉を付記します。言葉の使い方からして気を使っていますね。


2 離婚調停での登場人物
次に離婚調停にはどのような人物が参加するのか、について説明します。
(1) 当事者
まず当然ですが、「当事者」です。当事者を更に分けると、「申立人」と「相手方」になります。
「申立人」とは離婚調停を申し立てた人、つまり離婚を求める人、「相手方」とは離婚を求められている人のことをいいます。よく裁判では「原告」「被告」という言葉が用いられますが、調停はあくまでも話し合いの場ですので、対立関係を煽るような言葉は使いません。ここでも気を遣っているわけですね。
(2) 家事審判官
「家事審判官」とはいわゆる裁判官のことです。
この「家事審判官」がこれからお話しする2名以上の「家事調停委員」を指定したうえで「調停委員会」を組織します。
ただ、家事審判官は、大変お忙しいので、例外的な場合を除いては調停に実際に参加して当事者から話を聞くことはありません(ただ話が膠着(こうちゃく)したような場合や、調停内容を最終的に調整する目的で話し合いに参加することはあります)。
また「調停委員会」といっても、国会の「予算委員会」などといったかしこまった会議体ではありません。審判官と調停委員で構成されたチームの呼称くらいに思って頂いて結構です。
(3)家事調停委員
次に「家事調停委員」ですが、この方々こそが、家事調停での主要なプレーヤーの一人になります。
調停委員は、非常勤の裁判所職員で、弁護士の資格を有する者、紛争の解決に有益な専門的知識・経験を有する者から選任される専門調停委員のほか、社会生活の上で豊富な知識・経験を有する者で、人格・識見の高い者の中から選任される調停委員もおります。
このうち、事案が複雑な事件では弁護士の調停委員や専門調停委員が選任されることもありますが、離婚調停では専門調停委員が選任されることは少なく、一般には、「人格・識見の高い者」の中から選ばれた方が調停委員に選任されます。
離婚調停に関わる調停委員は概ね40歳くらいから60歳くらいまでの方が中心で、男女それぞれ1名ずついます。
元の、あるいは現在の職業については詳しく聞くことはないのですが、例えば公務員を長年やっていたり、学校の先生であったり、様々です。
私の勝手な感想で恐縮ですが、調停委員の先生は、さすが人生経験が豊富だなと思わせる常識的な方が多いとの印象を受けます。
むしろ、私自身、調停委員に対して何らかの不満が生じた場合は、一度自分の調停での態度などを自ら検証し、問題がないか確認するように心がけているくらいです。
まあ確かに調停委員の先生の中には、相手方の話をただ伝えているだけという方もおられますが、それはそれで中立的であるともいえますので、仕方がない部分があります。
最終的には相性の問題であると考えます。
このように、私は家事調停委員の立場や役割をとても重視しておりますが、それはひとえに家事調停の成否を決めるのは調停委員であると考えるからです。
調停委員とのやりとり、話し合いの進め方については次回以降のコラムで説明いたします。
(4) 代理人
代理人とは当事者に代わり、当事者とともに家事調停にて話し合いを行う立場の者です。
我が国では弁護士だけが家事調停の代理人になることができます。
よく家事調停で親御さんが付き添ってきて、一緒に調停室に入ろうとする方がおられますが、例え親族でも当事者でない限り調停室に入ることはできません。
もちろん司法書士の先生も行政書士の先生も調停室に入ることはできません。
つまり家事調停の代理人は弁護士だけがなれますので、その職責は重いです。
さて家事調停の代理人の職務は、家事調停の中で紛争の中心点を早期に把握し、話し合いのきっかけを探り出し、互いに妥協できるポイントを見据えたうえで、依頼者のために調停委員その他の関係当事者と折衝し、妥当な結論を導くことです。
言葉にすれば簡単ですが、あくまでも最終目標は依頼者の意思を実現することですから、裁判などと異なり、単純な勝ち負けだけでは割り切れない要素が沢山あります。
私の感想としては、家事調停の代理人にはそれなりの経験が必要であると感じます。
(5) 家庭裁判所調査官
以上のとおり、調停の参加者は、当事者、審判官、調停委員、代理人弁護士などがおりますが、その他に家庭裁判所調査官も重要な立場の方です。
家庭裁判所調査官は、調停期日に出席して当事者の解決の糸口を探り、調整的な役割を果たすことが求められている専門的公務員です。
代理人と職務が一部かぶりますが、調査官は中立的な立場である点、心理学、社会学、教育学、社会福祉学等の人間関係諸科学の専門的知識を有している点で、法律の専門家であり代理人である弁護士と役割を異にしております。
今回は、主に調停の登場人物について説明いたしましたが、次回は、調停手続について、どのようなやりとりがなされるのか、順を追って説明いたします。


離婚事件と財産分与の続きです。
今回は生命保険の解約返戻金が離婚時にどのようにして分割されるかがテーマです。
1 財産分与の対象となるのは?
まず生命保険にはいわゆる掛け捨ての保険と積立式の終身保険など色々な種類がありますが、離婚時の財産分与で問題となるのは、積立式の終身保険のような解約返戻金が発生する保険です。
言い換えれば解約返戻金が発生する保険であれば、生命保険に限らず、損害保険も学資保険も財産分与の対象となり得ます。
そして財産分与の基準時は、別居時の解約返戻金相当額です。
ただしこれはあくまで婚姻期間中に新たに生命保険に入り、夫婦の給与から保険料を捻出していたような典型的な場合を前提としています。
つまり、結婚前から保険料を支払っていた場合や、他の親族が代わりに支払っていたような場合は当然には解約返戻金全額が財産分与の対象となるわけではない、ということになります。
2 結婚前から保険料を支払っていたような場合
それでは、結婚前から保険料を支払っていたような場合、保険の解約返戻金はどのように分割されるのでしょうか。
正解というものはないのですが、よく行われている方法は、別居時の解約返戻金の金額に、保険の払い込み期間を分母として、婚姻期間(厳密には別居時までの期間)を分子として計算した割合を掛け合わせて算出された金額を財産分与の基礎とする、というものです。
あるいは支払った保険料の割合で計算することもあります。
これは例えば、保険料の割引に期待して結婚前に一括で保険料を支払った場合などに用いられます。
退職金に近い分割方法ですが、ある程度ご年配の方の離婚事件になると、生命保険などの解約返戻金が多額に上る場合があり、かつご年配になると、新たに生命保険を契約し直すことが難しくなりますので、その清算は意外に困難を伴うことがあります。

3 視点を移動して冷静に事件を眺めるとうまくいくことがある
既に繰り返しお話ししているところでありますが、特に家事事件においては、ある1点にこだわってしまうと、結果として自分にとって有利な解決が望めないことがあります。
これを生命保険と財産分与について考えますと、一方当事者が生命保険の解約返戻金は財産分与されるべきだ、との考えに固執してしまったため、相手方の「新たに契約することは年齢的にも既往症的にも不可能だから、解約だけは勘弁してくれ」との主張との間でお互いの意見が硬直化し、それだけの理由で財産分与の話し合いが頓挫する、といった場合もあったりします。
しかし、このような場合でも、例えば他の預貯金の分与で調整するなどすれば、案外保険を解約せずともうまく財産分与ができたりする場合もあります。
私も常に自らに言い聞かせていることではありますが、「視点を移動して冷静に事件を眺めること」が大事です。


これまで何回かにわたって離婚事件と財産分与の話をして参りましたが、今回はよく質問を受けることが多い「自宅の財産分与」がテーマです。
1 財産分与のおさらい
まず自宅の財産分与についてお話しをする前に、財産分与について軽くおさらいをしますと、離婚に伴う財産分与は夫婦の共同財産について行われるのが原則です。
これを「清算的財産分与」といいますが、分与割合は双方の夫婦の寄与率によって決められます。
といいますが、実際のところは2分の1の基準が変わることは余りありません
実際の調停や裁判では、特に夫の側から「妻は専業主婦だから寄与率は2分の1に満たないはずだ」といった主張がなされることがありますが、主観的な思いは別として、これによって妻の寄与率が40%になったり、30%になったりすることはまずありません。
また財産分与には「清算的財産分与」のほかに「扶養的財産分与」という考え方があります。
「扶養的財産分与」は、特に若い夫婦で清算的財産分与では一方当事者が十分な財産を受けられない場合によく主張されますが、財産分与はあくまでも「清算的財産分与」が原則で、「扶養的財産分与」は補充的な考え方であるとされていて、調停でそれだけを主張したとしても、なかなか受け入れてもらえないことが多いですね。
むしろ、相手方の特有財産の主張を牽制する目的で、扶養的財産分与の考え方を持ち出したりします。
また例えば慰謝料や、未払婚姻費用の精算を利用するなどして全体の支払額を調整することも多く行われるので、余り扶養的財産分与の主張を強調する必要がなかったりもします。
ケースによって異なってくるのですが、いずれにしても、あるテーマだけに固執して相手から何らかの妥協を引き出すようなやり方は、当事者の立場に圧倒的な力の差がない限り徒労に終わることが多いような気がいたします。
むしろ、一つの方法だけに固執せず、様々なカードを同時に用意することの方が重要です

 

2 自宅の財産分与の判断要素
さて、話が脱線しましたが、自宅の財産分与の話に戻します。
なお今回は、自宅が夫婦共同の財産であり、かつ財産分与の方法が清算的財産分与であることを前提とします。
この場合、判断すべき要素は沢山あるのですが、まずは
① 住宅ローンは残っているか
② オーバーローン(住宅ローン残高が自宅の時価を上回っている場合)にあたらないか
③ 自宅に誰が住んでいるか
の3点が重要なポイントです。
3 住宅ローンが残っていない場合
まず、住宅ローンが残っていない場合は、
① 自宅を売却して諸費用を差し引いた残額を当事者で分ける
② 売却せず、相手方の寄与率に相当する金額を一方が負担することによって清算する
③ そのまま共有のまま残す(登記簿上共有になっている場合)。
の3つのやり方が考えられます。
「共有のまま残す」、というのは何の解決にもなっていないように見えますが、特に自宅にどちらか一方が居住している様な場合や子どもがいるような場合に次善の策として取られることがあります。
つまり、売却そのものが難しいような場合です。
なお、例えばご年配の夫婦が離婚するような場合は、いずれ子どもが相続するからという理由で、共有のままで残しておくこともあります。
不動産の分与は非常に難しい部分があり、感情的な対立も生じやすいので、とりあえず離婚を優先して後回し、というケースもあるわけですね。
残りの、①②は実際の離婚の話し合いでもよく行われている手法です。ただ自宅に現時点で誰が居住しているか(③)、その他の分与財産によっても異なってきますので、何が最善かという答えはありません。
代理人弁護士の力の見せ所です。
4 住宅ローンが残っている場合
(1)オーバーローンでない場合
次に、住宅ローンが残っている場合ですが、オーバーローンでない場合は、
① 自宅を売却して、諸費用住宅ローン分を控除した残額を分ける
② 自宅の時価から住宅ローン分及び諸費用分を控除した残額を計算し、相手方の寄与率に相応した金員を支払うことによって清算する
③ そのまま共有のまま残す(登記簿上共有になっている場合)
の3つの方法が考えられます。
積極財産が残るわけですから、住宅ローンがない場合と同じような処理が可能なわけです。
(2) オーバーローンの場合
これに対し、オーバーローンの場合は少しやっかいです。この場合、住宅ローンの残高から自宅の時価を控除しても、住宅ローンが残ることになります。
例えば自宅が5000万円の時価であるとして、まだ6000万円の住宅ローン残が残っているとすると、1000万円の住宅ローン債務が残ってしまうことになります。
したがって、今まで説明した①売却して諸費用等を控除した残額を分配する、②理論的に当事者の分配分を計算してこれを一方当事者が支払うことで清算する、の手法はとりづらいことになります。
さてどうするかですが、まず考えられるのは、
とにかく売却する、という方法です。
この場合、オーバーローンですから、どうしても住宅ローンの残債が残ることになります。
そのため今後は住宅ローンについて一方当事者が支払を続けていくことになりますが、ここで問題となるのは、残った住宅ローンの残債も消極財産であり、夫婦共同財産であるから、当事者の一方も負担すべき義務があるのではないか、という点です。
夫婦共同財産が財産分与の対象となる以上、夫婦が共同生活を維持するために形成した債務も当然財産分与の際に考慮すべきことになりますので、理屈の上では当事者の一方も負担しなければならない、との結論に落ち着きそうです。
しかし、実務では、実際に債務を分与するといった場合に、具体的にどのような形で(裁判所が)財産分与を命じるか、はっきりしない部分がありますし、債権者(金融機関)を含めた三者間の法律関係が複雑になるという問題があります。
そのため、特に住宅ローンの債務について、これを財産分与の対象とするか否かについては、現状として積極説と消極説が対立しています。
この点現状では、消極説が有力ですが、実質的には夫婦の共同債務と同視すべきであるとする積極説もまた有力です
例えば先に述べた例では、1000万円の債務超過金を夫(元夫)が支払ったとして、夫(元夫)が妻(元妻)にその一部を負担してくれと求めた場合、消極説に立てば基本的にはそれに応じる必要がないことになりますが、積極説に立った場合は、内部的な負担割合にしたがって元妻が元夫に金員を支払うなどの対応がとられます(もちろん、積極説をとったとしても、その処理は一義的に定まるわけではありません。逆にいえば、その処理が難しいところが積極説の欠点であるともいえます)。
このように、住宅ローンが残ってしまった場合の処理は、実に複雑な問題を抱えているのですが、消極説と積極説の対立があることからわかるように、法律的に一義的に結論が定まっているわけではありません。
また、いずれの立場に立とうとも、合意で処理方法を定めることは当然可能ですし、衡平を失するような場合は例外的な処理がないわけではないことは理解して下さい。
例えば、消極説を前提として夫が将来の住宅ローンを負担するが、その代わりに、その他の財産分与については、少し夫に多めに取らせる形で衡平を実現する手法を取ることがあります。
杓子定規ではないですが、これが逆に言えば家事事件の特徴であるともいえますね。
なお、住宅ローンの財産分与を考えるにあたっては、ローンの債権者である金融機関の立場も十分理解しておく必要があります。
すなわち、住宅ローンの債権者である金融機関(例えば銀行)の立場からすると、債務者は住宅ローンの契約の名義人ですから、夫婦の一方が債務者や連帯保証人、物上保証人でない限り、金融機関が、潜在的な負担部分があると考えて名義人でもない当事者に対して債務の支払を請求したり、担保の履行を行ったりすることはありません。
よく、住宅ローンの契約書に何も自分の署名捺印がないのに、金融機関から請求されるのではないか、と不安に感じている方がおられますが、基本的にそのようなことはないと考えて頂いて結構です。
さて、今までは売却した場合についてでしたが、売却せず、住宅ローンは支払いながら、夫婦(元夫婦)のどちらか住み続けるという場合について考えてみましょう。
実際にはこのやり方が最も多く取られているかもな、と経験的には感じます。
例えば子どもがまだ未成年で、学区の関係で自宅を離れたくない場合とか、仕事の関係で移れない場合とか、自治会の役員をやっているので任期まで売却を待ってくれ、など色々な都合があるわけですが、どうせ自宅を売っても住宅ローンしか残らないのであれば、少しでも住んでいた方が得だ、という考えもあるわけですね。
ただこの場合、住宅ローンの支払を行っている側と自宅に居住している側が一致していればさほどのトラブルも有りませんが、一致していない場合は、後でトラブルにならないように、
① いつまで自宅に居住できるか
② 明渡期限が過ぎた場合の清算の方法
③ (場合によっては)居住する側の賃料負担
などについて予め取り決めをしておいた方がいいです。
将来的には他人になってしまうわけですから、やはり契約関係で縛りをかけておくべきだ、ということです。
以上ざっくりと説明して参りましたがいかがでしたでしょうか。
自宅の財産分与はお互いの利害が鋭く対立する難しい問題です。うまくいくとは限りませんが、法律の知識と交渉技術をたくみに利用して最善の解決案を考えてみてはいかがでしょうか。


前回は、別居後、離婚が成立する前に夫婦共同財産が処分されることをどうやって防止するのか、について説明いたしましたが、今回は、別居前に一方配偶者によって夫婦の財産が処分された場合、どのように対応するかについて説明いたします。
この問題については、明確な答えがあるわけではなく、それこそケースバイケースになります。
1 事前の対策
まず、事前の対応としては、形式上は「審判前仮処分」の線があります。
しかし、今回は別居前の話であり、離婚の蓋然性がどこまで認められるか若干疑問です。
いずれにせよ、別居後の申立にくらべてハードルが高いことは否めません。
そのため、この問題についてはどちらかというと予防法務的な対策、例えば、一方当事者の預金の残高や推移を逐一確認しておく郵便物の種類に敏感になる(例えば株式を購入していたならば、4月頃から6月頃にかけて株主総会招集通知が来ることが多いので、それで購入の事実がわかります。投資信託も同様です)などが中心となります。

2 事後的な対策
事後的な対策は一層限られてくるのですが、まず、ある銀行から他の銀行に財産が移されていたような場合は、移された先の銀行の預金が財産分与対象となるわけですから、まずその口座を発見することが先決となります。
既存の銀行口座で何か変わった点はないか、例えば知らない口座の記載はないか、光熱費の自動振込口座に変更はないか、そういった違いを発見し、新しい口座の発見に結びつけます。
次に、財産が親族など第三者の口座に移されていた場合ですが、これについては、なかなか対処が難しいですね。
ただ、裁判所もこの問題には関心があるようで、「破産における否認権行使と同様の扱いが適用される」として、移された財産についても分与の対象となると判断した裁判例も中にはあります。
この点、「破産における否認権行使」とは、要するに破産手続開始決定前に、破産債権者を害する行為があった場合、例えば、財産隠しなどがなされたような場合に、一旦流出した財産を事後的に取り戻す制度であり、その趣旨からすれば、破産における否認権行使と、別居前に流出した財産の取り戻しとは同様に理解できると裁判所は考えたのでしょう。
かなりテクニカルな方法であり、一般的であるとは言えませんが、そのような考え方もあるということで、紹介いたしました。


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以前、離婚事件と財産分与②(分与対象財産はいつの時点の財産を基準にするか)で、預貯金などについては別居時を基準としておおむね運用されていることについて説明しました。
別居時を基準とする、との考え方はそれなりの合理性があるのですが、基準時をどのように考えたとしても、実際に財産分与を受けるまでは様々なリスクがあります。
もっとも大きなリスクは、離婚に向けての話し合いをしている最中に、分与対象財産を管理している当事者が、勝手に預金などを引き出し、離婚成立の段階で対象となる預金の残高をゼロにしてしまうことです。もはやこれは「信義」の問題であると思うのですが、これは別居から離婚成立までの期間中に、一方当事者の財産費消に対する具体的な歯止めが取りづらいことに原因があります。もちろん、例えば調停や公正証書、判決には強制執行ができる効力(執行力といいます)がありますから、それらが成立すれば相手方の財産に対して強制執行をすることができますが、財産を費消するような相手方は強制執行を見越して事前対策をしていることが多く、功を奏しない場合が多いのが現状です。
そこで事前に対策を立てておく必要があります。
まず一つは、審判前の保全処分として預貯金等の仮差押を行うことです。
ここでいう仮差押とは、審判が下される前に財産が処分されることを防止するために、一時的に預貯金の引き出しができないようにしてしまうことです。
ただし、審判前保全処分は、要するに相手方の財産の自由な処分を強制的に制限することになりますから、財産の保全が認められるためには、保全の必要性、緊急性に加え、離婚の審判が認められる蓋然性などの要件を満たす必要があります。
また、相手方の財産の処分を制限する代わりに、保全を申し立てる人は、担保として裁判所が定めた保証金を法務局に供託する必要があります。
加えて、「審判前の保全処分」ですから、保全をするためには、後に審判を起こさなければなりません。
また、何よりも、相手の財産の処分を制限するわけですから、相手方の関係が険悪になることは必至ですので、申立をすると、その後の話し合いにとって障害になることがあります。
つまり、その使用には十分な注意が必要なのです。
そのほか、通常の民事保全を使う方法や、調停前仮処分などの方法がありますが、例えば調停前仮処分は審判前仮処分と異なり強制力がありませんので、いまいち使い勝手が悪いのが実情です。
「帯に短したすきに長し」。結局は当事者同士の信義に頼っているというのが、今でも主流であると言えるのですが、昨今相手方に代理人がついていても財産の散逸化、及び処分が行われる例がちらほら見られるようになりましたので、そろそろある程度のリスクを負ってでも審判前仮処分などの強制手段を積極的に用いる時期にきているのかな、と感じております。
何となく寂しい話ですが、依頼者の利益の実現のためには仕方がないことです。