千歳・大石法律事務所は横浜・関内の法律事務所です。

横浜・関内 千歳・大石法律事務所

(これからお話しするストーリーは手続を説明するためのフィクションであり、「ミナト木材加工株式会社」も特定の会社を想定したものではありません)

イントロダクション

A氏の場合①

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7 破産で覚悟すべきこととは?

「今までお話ししたとおり、御社の現在の状況についてお話しを聞く限りでは、破産も一つの可能性として検討しなければなりません。

もちろん、例えば、金融機関から緊急融資が受けられるような場合や、本社工場を売却してある程度の現金が手に入るというのであれば別ですが、融資を受けるだけの時間的な余裕はありませんし、何より本社工場は借地なので、売却することもできませんよね。

むしろ、今は資金繰りがショートする可能性が高いとはいっても、会社は営業しているわけですから、売掛債権の回収によってある程度の現金は確保できます。ですから、今破産を選択すれば、傷口が深くならずに済むかも知れません。」

弁護士は穏やかな目線でA氏に語りかけた。

「破産のメリットはわかりました。ではデメリットは?」

A氏はまだ迷っていた。

「デメリットといって良いかは分かりませんが、まず「ミナト木材加工株式会社」がなくなるということですね。この伝統ある会社がなくなること、については気持ちの面で整理が難しいかも知れません。

実は、会社の破産で一番難しいところは、この感情面での心の整理なんです。

ただこの部分をクリアできてしまえば、あとはビジネス、つまりお金の問題ですね」

「お金の問題といいますと?」

「まずは、従業員の解雇に関する問題ですね。解雇は従業員の生活の維持と直結しますから、経営者として適切な対応をしないといけません。」

「次に債権者からのクレームや不平不満が当然出てきます。とれるお金が取れないからですね。特に、御社との取引に重きを置いていた会社であれば、それこそ死活問題ですから、必死です。」

「ただこの問題につきましては、例えば弁護士が「受任通知」を送れば、その弁護士が債権者との間の話を受け止めることになりますので、結果として壁になります。また破産の手続が始まれば、その役回りは破産管財人という立場の人が主に受けることになりますし、「債権者集会」も裁判所の中で厳格な手続にしたがって行われますので、混乱もある程度は押さえられます。そもそも債権者が集会に来ない場合も多いですしね。」

「では、全く心配しなくてもいいんですね?」

「手続上はかなり守られるという意味です。ただし100%ではありません。

債権者にも色々な方がおられますので、弁護士が受任通知を送っても、直接あなたに電話を掛けてくる方はいるかも知れません。

よくお話しをするのですが、最終的にルールであったり、運用であったり、しきたりであったりそういったものを守るか守らないかはその人の自由です。

罰則があったり、損害賠償請求をされる恐れなどがあれば通常はやらないことでも、人によっては、そのようなペナルティーを受け入れてでも、自分のやりたいようにやりたい、と考える人もおられます。

そもそも、ルールや運用に無知な方であれば、そういった逡巡自体もないわけです。」

「これは、今回のようなケースに限らず、紛争全般に当てはまるものです。」

「ということは・・・」

A氏は梯子を外されたような気持ちになった。

「心配してますね。でもあなたが心配するような事態は実際にはほとんど起こりません。起こったとしても、例えば代理人弁護士が連絡をして誤解を解消することもありますし、破産手続きを早めることで、リスクを最小限にすることもできます。つまり、一つの手段でだめなら次の手段を選べば良いのです。

大事なのは、一回であきらめないという経営者としての決断力と柔軟性ですよ。」

「他に何かお聞きしたいことはありますか?あなたの目を見ていると、まだまだ聞き足りないという感じがしますね。」

「聞き足りない、というよりは、余りにことが大きすぎて、頭を整理し切れていないんですよ。ほんとどうなっちゃうんだろう。」

弁護士はひとしきりA氏の愚痴を聞いた後、口を開いた。

「それこそが、会社が一つなくなることについての心の整理ですよ。わからなくてあたりまえ。まずは、身近で信頼の置ける人に思いの丈を話してしまったらどうですか?」

 そして、弁護士は、椅子に深く腰掛け、おもむろに訟廷日誌を取り出した。

「いずれにしても、会社の重大事ですから、今決断する必要はありません。

もっともあまり時間もありませんので、明後日くらいに改めて事務所にお越しください。」

A氏は事務所を出てエレベータに向かった。

A氏は弁護士の話を聞いて少し心が晴れた気がした。しかし、同時に、経営者として最後の決断をすることの意味を考えざるを得なかった。

「ふう。やはり家族には説明しないとな」

 

次に続く


(これからお話しするストーリーは手続を説明するためのフィクションであり、「ミナト木材加工株式会社」も特定の会社を想定したものではありません)

イントロダクション

A氏の場合①

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6 「破産」という言葉の持つ意味

木材事業の話が済んだところで、弁護士が口を開いた。

「さて、先週の電話で御社の資金繰りが悪化している可能性についてはわかりましたが、もう少し具体的にどうして資金繰りがおかしくなったのか、お話しをお聞かせ願えませんか?」

「もともと木材加工業界は長く続いた建設不況と安い海外製品に押されて景気が良くない業界だったのですが、当社はそれでも何とかやりくりしてここまでやってきました。それもいくつか先代から続く大口のお客さんがいたからでもあるのですが、先週、突然そのお客さんの一つから代金を支払わないとの通知が来てしまいまして。。」

A氏は言葉を一つ一つ選びながら説明した。

「代金を支払わないとは、大事ですね。相手方の言い分は何ですか?例えば納品の時期が遅れたとか、製品に欠陥があるとか、契約の解除をされたとか、そういったことですか?」

「ええ、そうなんです。当社の納品した住宅資材にシロアリが混入していたということで、客先が私どもに対して損害賠償を請求してきまして、それと代金とを相殺すると主張してきたんです」

A氏は声を絞り出すようにして言った。

「なるほど、よくある話しと言っては何ですが、あなたにはその点に心当たりはあるのですか?」

弁護士は顎に手を添えながら身を乗り出してきた。

「身に覚えはないのですが、先生もおわかりのとおり当社は木材という「生物」を扱っておりますので、虫害やカビといった問題が生じることは避けられません。ただこういった問題は大抵はそれが生じた時点で客先からクレームが来るものですし、こうした場合は当社が欠陥のない製品と交換することで大体解決していたのです。それが、、」

弁解めいた話をすることに躊躇を覚えたが、弁護士の真剣な眼差しを信じて全て洗いざらい話してしまおうとA氏は思った。

「突然、客先から損害賠償だと言われたのですね。製品については検収は当然終わっているわけでしょう?ところで、その客先は御社の資金繰りがぎりぎりだったということはご存じでしたか?」

「検収は終わっており、書面をいただいています。だから安心していたのですが、、こんなことになってしまって、、。資金繰りについてははっきりとは説明していませんが、狭い業界なので、、。以前前払いなども求めたことがあるので、あまりうまくいっていないのかな、位の認識はあったと思います」

「客先の意向はわかりませんがね。結果としてですが、先方としても資金繰りがうまくいっていないリスクの高い会社との取引を停止できたわけですね。

それはともかくとして、先方から送られてきた通知を見せて頂けますか?」

A氏は鞄からホチキス止めされた書面を探し出し、弁護士に渡した。

「なるほどね。住宅の施主から損害賠償の訴訟が起こされたと。この裁判は続いているわけですか。

となると、御社に対する最終的な損害賠償額がはっきりするのはもう少し後になりそうですね。うーん。」

弁護士は少し考え込むような表情を見せた。

「この客先に対する売掛金はおおよそ幾らくらいなんですか?」

「1月15日に500万円を受け取る予定でした。それがないと、月末に買掛金を支払うことができません。」

A氏は覚悟を決めて資金繰りが月末にはショートする可能性が高いことを説明した。

「客先とは話をしましたよね。例えば一部は払うとか、取引は今後も継続すると言った話はなかったんですよね」

「何度も話をしました。大きな会社なので、担当者レベルでは埒があかなくて、、。」

A氏は弁護士の意に添えない回答をしたのではないかと思い、不安に思った。

「それでいいんです。つまり、上司に掛け合っている余裕はないことははっきりしていますね」

弁護士は意外にも満足そうな顔を見せた。

「そうです。月末には間に合いません。」

ここまで話してA氏は、弁護士はミナト木材加工株式会社の手続の方向性について聞いているんだなということが分かった。

「つまり先生は、当社について破産をすべきかどうかを考えていらっしゃるんですか?」

「一つの可能性としてはね。ただそれよりも大事なのは、前提問題で、月末の支払を乗り切れるかということです。損害賠償請求をしている客先との間で和解の可能性はあるか。和解の余地があるとして交渉にはどれくらい時間が掛かると予想されるか。月末の支払について賃金などの最優先の債務を除いた残額はどれくらいあるか。待ってもらえる債権者はいるか。といった事情をお伺いしながら、まず当面の資金繰りのピンチを乗り切れるかを考える。その上で、将来に向けての再生可能性についても考えます。例えば翌月以降の資金繰りなどね。」

「こうした話をお伺いして、仮に会社に再生の余地があると考えたとしたら、次に社長ご自身のお人柄とのマッチングを考えたりします。つまり茨の道を乗り切れるだけのやる気と熱意があるか、といったところですね。」

「ただ今までのお話しをお伺いする限りですが、大口の客先から取引停止と共に代金支払いを止められてしまう。そして話し合いの成果が上がっておらず、最終的な解決には時間が掛かりそうだ。という事実を総合すると、会社の再生を進めるだけの時間的な余裕がないようにも感じます。国税の調査も入っているということも勘案すると、一つの可能性として破産も一つの選択肢に上がってくることは否定できませんね。」

破産という言葉が弁護士の口から出てきた瞬間、A氏の背筋は凍り付いた。

「やはり破産ですか、私はどうなってしまうんでしょう。」

「まずあなたが破産を恐れるのは当然のことです。愉快な言葉ではないことは確かです。

ただ。」

「ただ?」

「あなたの恐れは「お化け」を恐れることと似ています。つまり「得体が知れない」から怖いというものですね。あなたには情報が少なすぎるのです。情報が少なすぎるから、あなたは自分の将来がどうなるかわからず、不安になるのですよ。」

「でも、破産って戸籍にのるんですよね」

「なるほど、戸籍にのったらやっぱり嫌だよね。でもほらこれだって間違った情報ですよ。そもそも今話に上っているのは会社の破産であって、あなたの破産ではありません。私はあなたが会社の連帯保証人になっているとか、多重債務を負っているといった事情は伺っておりませんので、あなた自身の破産はまだ検討段階にはありません。それにそもそもあなたが破産したからといって、戸籍謄本に載ると言ったことはありません。つまりこんな感じで間違った情報や分からない情報が多いこと、そのことが人々の不安を駆り立てるわけですね。」

次回に続く

 


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イントロダクション

A氏の場合①

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5 会社に関心をもつ意味って?

相談日当日、A氏は決算書、借入を明らかにするための書類、預金通帳、登記簿謄本など、弁護士から指示された資料を携えて事務所に向かった。

緊張の面持ちでインターホンを鳴らすと、おそらく事務員と思われる女性が、

「お待ちしておりました。どうぞお入り下さい」

との声と共に扉を開けてくれた。

多少緊張がほぐれたA氏は、その女性とたわいもない話をしながら、相談室の椅子に座り、出されたお茶をすすりながら弁護士が入ってくるのを待った。

遠くの方で男性の声がしていたが、その声が止むと暫くして、少し大柄の弁護士が心持ち笑みをたたえながら相談室に入ってきた。

怒られることはないとは思っていたが、さりとて愉快な話をするわけでもないので、A氏は若干拍子抜けした。

名刺を交換し、軽く自己紹介をした後、弁護士は、おもむろに

「さあ、どこからお話しをうかがいましょうか?僕はまだ事情のさわりしか聞いていないのでね。

それではまず手始めに御社がどんな会社なのかについて教えていただけますか」

といいながら、A氏の顔を見た。

「まだ本題には入らないのか・・緊張をほぐすためかな」

とA氏は思ったが、弁護士は笑みを見せながらも真剣な様子なので、ミナト木材加工株式会社が歴史ある会社であること、自分が3代目の社長であること、主たる営業は木材加工だが、昨今は海外の工場との関係で価格競争力が落ちていること、などについて一気に話した。

弁護士は、少し身体を前に乗り出し気味にしながら、

「横浜で昔から木材の加工をやっていたというのは、何か事情でもあったんですか。例えば船の建造で使う木材を加工していたとか・・」

と、ミナト木材加工株式会社の成り立ちに興味を示してきたので、A氏は、

「もともと横浜には東京の木場と同じような貯木場があったんです。それで、私の先々代の社長が貯木場に近い磯子の地で木材を加工する事業を始めた、というわけです。

当時は貯木場の近くにいくつか造船所があったそうで、私どもの会社も木材を

加工して卸したりしていたようですが、今はそういった造船所もなくなりましたので、今では専ら建築資材や家具の材料などを製造しています。」

と話した。

「確かに今漁船などもFRP船だしね。で工場は磯子のどこにあるの?」

あまりに会社のことを細かく聞くので、A氏は、

「私の会社に関心をもっていただくのはとても光栄なのですが、随分マニアックなことまで聞いてきますね。どうしてですか?」

と弁護士に質問した。

これに対し、弁護士は、

「いやあ。僕は、ものを作る話や商売の話を聞くのが好きなのでね。失礼しました。

ただ、今日は会社をこれからどうしていくのか、について話を聞きに来たんでしょう?

それなら、まず最初にその会社のことを知らなければならないよね。まず、あなたの会社に関心を持てるか、そこが大事だと思うんですよ。」

A氏は、ようやく意味を理解し、その後は弁護士と日本や海外の木材事業を巡る話に花を咲かせた。

次回に続く)


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A氏の場合①

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4 状況の変化

A氏は国税局の意図を計りかねていたが、弁護士からは何か変わった情報があったら教えてくれと言われていたので、取り合えず弁護士に電話でことの次第を伝えたうえで、相談することにした。

「国税局?」

しばらく考え込んだ弁護士はA氏に対し

「こうなると、動きだしは早いほうがいいですね。1月25日が相談予定日でしたね。例えば明日の21日はいかがですか?」

と相談日程の変更を求めてきた。

A氏がまだ完全には書類の準備ができていない旨を話したところ、弁護士は

「国税当局が動いているということは、すでに御社の資金繰りが悪化し、場合によっては破綻する可能性がある、ということを察知している、ということです。

それ自体は何らおかしいことではないのですが、仮に国税当局が『滞納処分』で御社の口座や取引先の売掛債権を差し押さえてしまったら、破産や民事再生をするとしても、資金すら足りなくなってしまう可能性があります。ですから、できるだけ早めに打合せをして、会社の状況を把握する必要があるのです」

と説明した。

A氏が「破産や民事再生にはそんなにお金がかかるのですか」と話すと、弁護士は

「お金がかかるからといってひるむ必要はありませんよ。

ただ、破産では申立にかかる弁護士費用のほかに、裁判所に納める『予納金』が必要ですので、スムーズに破産手続きを進めていくためにはある程度の軍資金が必要なのです。

民事再生の場合は、さらに当面の営業を支える資金が必要となります。」

と話し、破産手続や民事再生手続にはある程度の資金が必要であることを説明した。

A氏が、「軍資金を貯める必要性については分かりました。でそれと国税局の滞納処分との関係は?」と尋ねると、弁護士は

会社の財産に対して国税滞納処分がすでになされている場合、破産手続開始決定があっても手続の続行は妨げられないとされています。これが通常の「差押」と異なる点です。逆に破産手続が開始してしまえば、原則として滞納処分はできなくなるので、滞納処分で売掛債権などが差し押さえられることで予納金が足りなくなるなど切羽詰まった場合は、できるだけ早めに破産手続きの申立てをする必要が生じてくるのです。もちろん、予納金の確保がすでにできている場合はその必要はありませんがね。」

「ですから書類は用意できたものだけでよいので、とにかく社長の話を聞かせて下さい。」

弁護士の口調は物腰柔らかであり、A氏をリラックスさせようとしているのか、時に冗談なども交えていたが、ただその言葉にはある種の厳しさが含まれていた。

A氏は、当初の予定を早めて1月21日に弁護士事務所で打合せをすることにした。

電話を切った後、A氏は、自分の意思とは無関係に変化していく状況に言いようのない不安をおぼえた。

この不安は何だろう?会社がなくなることの不安?自分の生活が脅かされることの不安?不名誉な事態が生じる可能性に対する不安?

その時A氏は弁護士から言われた言葉を思い出した。

「あなたは多分不安でしょうね。でもそれは何よりもあなたに情報が足りないからです。決断するにも何するにも、将来に対する不確定要素をできるだけ取り除いておく必要があると思いますよ。それでようやく覚悟が決まるのです。経営者としての覚悟がね。」

そして1月21日の相談日が訪れた。

次回に続く


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A氏の場合①

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3 意外な言葉

「あなたの行動は間違っていませんよ」

弁護士から言われた言葉は意外なものだった。

「もちろん、会社の資金繰りが苦しくなったことについて、あなたの経営に全く問題がなかったかといえば、あるのかもしれませんがね。

でも、今あなたがしなければならないことは、過去を反省するというよりも、将来に向けて最善を尽くすということですよね」

「その意味ではあなたは正しい行動をしています。専門家に相談した、という一点においてね。」

「逃げたことにはなりませんか?」

「資金繰りが苦しくなった経営者にありがちなのは、「自分で何とかする」というものです。もちろん経営者として業務改善に努力するというのは当然ですが、あなたの会社のように今日か、明日か、に資金繰りがショートするといった状態になってしまった場合は、経営者の頑張りだけでどうにかなるものではありませんよね。むしろ、頑張りすぎることは、冷静な目線を失わせることにもなるんです。だから、あなたが、自分だけで何とかしようと思わずに、弁護士や税理士や会計士に相談しようと思ったということは、正しい行動なんですよ。だから自信をもってください」

A氏は、ここ数日で初めて前向きな話を聞いたような気がした。

状況は最悪だし、破産の可能性もあるかもしれないが、自分のとった一つ一つの行動に自信をもってやるしかない。

そう覚悟を決めたA氏は、電話を切り、1月25日の相談に向けて準備を進めることとした。

その矢先に、得意先の一社から一本の電話があった。

「お宅の会社、何か問題があるの?今日国税局の担当者が取引について尋ねに来たよ」

次回に続く

 


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イントロダクション

A氏の場合①

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2 法律事務所に電話した

A氏は、会社の名称などを簡単に伝えた上で、現在会社の資金繰りが急速に悪化していること、長年取引を続けてきた取引先から突然取引の停止を通告されたため、月末の支払ができないこと、できるだけ早い時期に弁護士と相談したいこと、などを説明した。

焦っていたため、うまく伝わったかどうか心配であったが、少なくとも急ぎの相談であることは理解してくれたようだった。

電話口で応対してくれた女性は、しばらく弁護士と相談し、近い日時で相談日程を調整してくれた。

また、同時に、弁護士からの指示ということで、直近5期分の決算書と法人登記簿謄本、そしてできればということではあったが、金融機関から借入をしている場合は借入残高と返済額がわかるような資料、取引停止を通告された取引先の通知書やその他の関連書類、最後に会社の代表者印なども持ってくるように言われた。

また、従業員に対しては、必要がない限り、資金繰りが悪化していることや弁護士に相談しに行くことなどといったことは話さないように念を押された。

A氏は、早速、経理を担当する従業員に対し、決算書、法人登記簿謄本、銀行との間で取り交わされた消費貸借契約書を用意するように指示した。

ただ取引先からの通知書については、担当の社員が出張で本社にいないため、必要な資料を集めることはできそうになかった。

慌ただしく相談の準備を続けるA氏であったが、これから会社がどんな運命になっていくのか、80年も続いたミナト木材加工株式会社を自ら潰すことになってしまうのか、もしも破産するとなったら裁判所ではどんなことを言われるのか、債権者から袋だたきに遭うのではないか、など、必要な資料を集め切れていないこともあり、様々な不安が繰り返し頭をよぎった。

不安は翌日になっても消えることがなかったため、再び法律事務所に電話したところ、慌てた様子を察してくれたようで、弁護士にそのままつないでくれた。

応対してくれた弁護士は、落ち着いた声で、次のように話してくれた。

次回に続く


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第1章 

1 取引先から取引の停止を通告された!!

A氏が経営するミナト木材加工株式会社は、複数の住宅メーカーからの下請けで木材を工場で加工し、住宅用の建材として納入している。

会社の歴史は古く、かつて横浜に貯木場があった時代から80年以上続く老舗である。

A氏は祖父から数えて3代目の社長であり、50歳である。妻と、今度大学に入学する18歳の娘がいる。

発行済み株式総数は500株。A氏が300株、その妻Bが100株、その他かつて大手住宅メーカーで同僚であった知人のCが100株を有している。

会社は取締役会設置会社であり、Aが代表取締役、妻Bが取締役、Cが監査役である。
従業員は20名ほどで、うち10名はパートタイマーである。

給与の合計は役員の報酬を除いて月額500万円程度であり、役員報酬はAとBを合計して月額100万円、Cは無報酬である。

支払は当月末日締め、翌月25日払いである。

工場は横浜市の磯子区にあり、本店事務所もその工場内にある。工場は借家であり、家賃は月額100万円、翌月末日払いである。

工場内には大小様々な機械があるが、そのうち数台は住宅メーカーから貸与を受けたものであり、残りの機械は会社所有とリースとに分けられる。

ミナト木材加工株式会社は、複数の木材会社から材料となる木材の供給を受けている。

支払い方法は様々であるが、中には手形で支払をしているものもある。材料費は700万円程度である。

手形の決済は毎月10日である。

その他の固定費は100万円程度である。

甲銀行からは証書貸付で合計2億円程度の借入があり、A氏が連帯保証人になっている。A氏は自宅を有しており、すでに住宅ローンは完済しているが、この甲銀行の連帯保証債務について抵当権がついている。
毎月の返済額は元利込みで200万円である。
借入目的は、工場拡張に伴う設備費用である。

消費税の滞納もあり、合計5000万円程度あるため、税務署からは度々督促を受けている状況であるが、すでに慣れっこになっている。

これに対し、年商(年間売上)はおよそ2億円。月平均にならすと、おおよそ1600万円程度である。

以前は年商3億円程度あったが、
海外の安い建材に押されて売値が抑えられた結果、現在のような売り上げとなっている。

ミナト木材加工株式会社はそれなりの年商を記録しており、周囲からは優良企業として認められていたが、売り上げの低迷が続いたため、実際のところは売り上げから材料費や固定費、人件費、返済金を差し引くとほとんどキャッシュが残らない状態であり、そのため現実には役員報酬をカットすることで資金繰りをしのぐ状態であった。

ところが、平成26年1月6日、新年早々事態が急変することになる。

突然住宅メーカーの乙社から内容証明郵便で1000万円の損害賠償請求と今後の取引の停止を通告されたのである。

その内容というのも、ミナト木材加工株式会社が納入した建材にシロアリが混入していた、というもの。

そのため住宅の施主から損害賠償請求の訴訟を提起されたため、住宅メーカーの責任追及の過程の中でミナト木材加工株式会社の名前が浮かんだというわけである。

ミナト木材加工株式会社にとって乙社は売り上げの3割を占める重要な顧客であり、乙社から取引を停止されることは会社にとって文字通り死活問題である。
そこで、A氏は乙社の本社を訪ね、担当部長に取引の停止を思いとどまるように説得したが、部長は本社の方針なのでといってとりつく島もなかった。

なお、内容証明郵便で通告された内容は、損害賠償請求権と乙社の○○株式会社に対する支払債務とを相殺する、というものであった。

乙社の代金支払い予定日は1月15日であり、その日に500万円の支払がある予定であったが、この通告は、1月15日の支払がなされないことを意味していた。

このままでは従業員の給与を支払ってしまうと、1月末日に予定されている木材会社に対する買掛金を支払うことができなくなってしまう。

窮したA氏はすがる思いでインターネットを検索し、たまたまヒットした横浜の法律事務所に電話を掛けた。

次回に続く)


当事務所の代表弁護士は、これまで会社の破産手続を多く手がけており、その関係で、会社あるいは個人事業の経営が苦しくなった、ということでご相談に来られる方が多くおられます。

あるいは、第三者から、あの会社はどうやら経営が苦しいようだから、何とかしてくれないか、といった相談も受けることがあります。

その多くが、「資金繰り」に関する問題であり、もう少し平たく言えば、買掛金や未払い金の支払期日が迫っているが、資金の手当てがないといった問題です。
場合によっては、既に未払の債務が積み上がっていて、文字通り首が回らない状態で相談に来られる方がおります。

相談に来られる方は余程の方でない限り皆切羽詰まっています。特に代表者本人も金融機関の連帯保証人になっているなどして、債務者になっている場合などはなおさらです。

また、多くの方は、長年続けてきた会社を何とか建て直したいと考えております。
特に親から引き継いだ会社や多くの従業員がいる会社ならなおさらでしょう。

弁護士は、そうした多くの切実な思いを受け止めながら、法律の専門家として様々なアドバイスをし、時には代理人として代表者、従業員とともに活動していくわけです。

 

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これから何回かにわたって、会社の破産、再生といった手続について説明する予定ですが、皆さんの中には文献や第三者からのアドバイスなどで色々な情報を得ている方もおられるでしょうから、当コラムではイメージを持ってもらうために、もう少し生々しい具体的な内容を説明することといたします。
その上で、破産手続やその他の手続について出来るだけわかりやすく説明する予定です。

なお、当事務所は法律事務所であり、会計事務所ではありませんので、当コラムでも例えば財務諸表の分析の方法といった部分については必要に応じて説明するにとどめます。
「餅は餅屋」ということわざがあるように、専門家にはそれぞれ得意とする分野があります。弁護士は仮に財務諸表の分析が得意でも、結局は税理士や公認会計士に任せた方がいい分野が、破産手続きやその他の再生手続にはかなりあります。
ただし、全体的な流れを把握し、最後まで、例えば裁判所において破産手続きが終結するまで、面倒を見ることができる、というのが弁護士であるともいえるので、当コラムでもそのような視点で説明していく予定です。

最後に、これから当コラムで触れるストーリーや具体例は、私が実際に経験した事実を元にしてはおりますが、特定の事件を示すものではありません。多くの事例においておおよそ共通に見られる事情を元にしている、ということはご了解下さい。

次回に続く