千歳・大石法律事務所は横浜・関内の法律事務所です。

横浜・関内 千歳・大石法律事務所

(これからお話しするストーリーは手続を説明するためのフィクションであり、「ミナト木材加工株式会社」も特定の会社を想定したものではありません)

イントロダクション

A氏の場合①

A氏の場合②

A氏の場合③

A氏の場合④

A氏の場合⑤

A氏の場合⑥

A氏の場合⑦

A氏の場合⑧

A氏の場合⑨

A氏の場合⑩

A氏の場合⑪

11 従業員への説明

1月30日午後5時30分、A氏は、工場建物の2階にある会社の会議室に従業員を集めた。

「皆さんにお知らせしなければならないことがあります。」「我が社はこれまで長きにわたって、木材の製造加工を続けて参りました」

従業員がざわめいた。いつもと違う言葉が続いたからである。

「ところが、昨今の経済状況により、我が社の売上げは徐々に減って参りました。それは皆さんもうすうす分かっていたことと思います。」

「これまでは、借入を増やし、会社にあった資金を少しずつ食いつぶしながら、やってきました。何とかなるはずだと。」

「でも、税金の滞納も重なり、客先からも損害賠償が来るなど、将来に向けての営業の見通しがたたなくなりました。」

「そこで、突然で申し訳ないのですが、本日をもって我が社の営業を終了し、会社を破産させることにしました。」

「すでに、弁護士の先生に破産手続を依頼しており、予定としては、来月には破産の申立を裁判所にする予定です。」

「なお、本日付をもちまして、皆さんを解雇いたします。これまでの給与及び解雇予告手当はお支払いたします。」

「また、離職票等、必要な書類も滞りなくお渡しいたします。」

「以上のとおりになりますが、社長の私から一言お話しいたします。」

「日本の産業構造の変化、景気の悪化もありますが、ひとえに責任は経営者である私にあります。先代から事業を引き継いでこれまでやってきましたが、このようなことになってしまい、皆さんには大変申し訳ございません。」

A氏はこのように述べて、頭を下げた。

従業員は一様に驚いた様子であったが、突然の言い渡しに、理解に時間がかかっている様子であった。ベテランの従業員が口を開いた。

「社長。私たちの生活はどうなるんですか?退職金はどうなるんですか?」

「退職金については、中退協から支払われる分については、保障されますが、現段階ではそれ以上の支払いはお約束できません」「なお、未払い給料や退職金は、一定の条件の下で未払賃金立替払制度の適用がありますし、破産手続になった後、他の債権よりも優先して支払われる余地がありますが、今の資金繰りではどこまで支払いができるか・・・」

A氏は、そう話しながら少し言いよどんだ。ベテランの従業員は黙って聞いていた。納得をしていないことは見ても明らかであったが、仕方がないという従業員の空気に押されたのか、再び口を開くことはなかった。

「営業は今日で終了です。建物の明渡しなどもありますので、皆さんは、今週末までに私物を持ち帰って下さい」

従業員は一同無言で荷物を片付け始めた。

しばらくしてから、従業員の一人がA氏の元に近寄ってきた。

「社長。大変でしたね。私、会社のことに本当気が付かなくて。申し訳ありませんでした。これからまたどこかで会える日を楽しみにしています」

A氏 は涙を抑えられなかった。

次に続く