弁護士の千歳です。
弁護士の見分け方については、以前にもお話ししたことがありましたが、この話題につきましては、お問い合わせも多いので、
改めてお話しすることといたします。
皆さんは弁護士を選ぶ際に様々な要素を考慮していると思いますが、前回もお話ししたとおり、弁護士を選ぶコツは
①「ネガティブな情報も説明しているかどうか」
②「断定的な口調になっていないか」
③「弁護士の教養が見て取れるか」
の3点に集約されると思います。
特に①、②については重要で、誠実な弁護士かどうかを見分けるポイントになります。
マイナスの情報を説明しているかどうか、ですが、相続放棄を例にとれば、弁護士としては、単に相続放棄をすれば債務を免れることができますよ、とか、その後面倒な遺産分割の手続に加わらなくてもいいですよ、といったプラスの面及び原則として相続があったことを知ったときから3か月以内に申述しなければいけませんよといった手続の説明だけでなく、
① 相続放棄は撤回ができないこと
② 相続放棄を行うと、積極財産(例えば預貯金)を含めて一切を相続できなくなること
③ 相続放棄を行っても、一定の条件では義務を免れないものがあること(例えば、相続放棄をしても、その放棄によって相続人となった者が新たに相続財産の管理を始めるまでは、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならないとされており、義務が残ります(民法940条)
④ 相続放棄を行っても、放棄をした人の行動によっては、後に相続の承認があったとして相続放棄の無効が主張されることもあること
などといったマイナス面又はネガティブな面をしっかり説明しなければなりません。
しかし、弁護士の中には、このようなネガティブな側面を述べずに、プラスの面だけを強調する方がおられます。
これは受任率といいますが、あまりにネガティブなことを話すと、事件の依頼がないのではないかという不安があるからです。
逆に言えば、こうしたネガティブな面も臆さず説明する弁護士は、事件の依頼があるかないかで一喜一憂する必要がない余裕のある弁護士で、かつ誠実な弁護士ということになります。
なお、相続放棄について少し補充すると、弁護士は、相続放棄について説明を求められた場合、まず現段階で相続承認に当たる行為、例えば、預金を引き出して自己の用途に使ってしまったり、自動車の名義を変更したりといった行為をしていないかをチェックする必要があります。
なぜなら、すでにお話ししたとおり、これらの行為は相続承認にあたる行為であり、一度相続承認がなされると、相続放棄はできなくなってしまうからです。
また同様に、相続放棄を相談されたら、弁護士としては、今後も含めて相続承認にあたる行為をしないように口酸っぱく指導する必要があります。
このような指導をしっかりやってくれる弁護士かどうかも誠実な弁護士を見分けるポイントになりますね。
ただ、ネガティブな情報ばかり言われたら、皆さんとしても、あまり前向きな気持ちになりませんよね。
それは当然のことで、この場合、誠実な弁護士であれば、こうしたネガティブ情報を踏まえたさらなる提案を行うと思います。
例えば、相続放棄の件でいえば、
① そもそも亡くなられた方の遺産がどの程度なのか、もう少し調査してみたらいかがでしょうか?
② 例えば信用登録機関に債務の有無を確認する方法などもありますよ
③ 不動産があるということですが、担保(抵当権)などがついていないかどうか、まずは不動産登記簿謄本を取りよせてみたらいかがでしょう?
④ あくまで目安にしかなりませんが、固定資産評価証明書をとれば、おおよその不動産の価格がわかりますよといったように、現状での問題点を踏まえた提案をするような「提案型」の弁護士は、よい弁護士といえるでしょう。
紙面が長くなりましたので、② 「断定的な口調になっていないか」、③ 「弁護士の教養が見て取れるか」については、日を改めて説明することにしましょう。
以前「弁護士の見分け方」と称して、リスクをあえて説明できる弁護士は誠実な弁護士であるという話をしましたが、今回は、「素養」にポイントを絞って弁護士の見分け方を説明いたします。
皆さんは弁護士の素養というと、おそらく法律の素養をイメージされる方が多いかと思いますが、ある意味、法律の解釈や判例の理解といった「法律の素養」については、弁護士の資格を持っている人であれば、まず問題のないレベルに達しているのではないかと思います。
弁護士になるためには、色々なハードルがあって、例えば司法試験などで法律の素養がない方は、そこでふるい落とされてしまうわけですね。
ただ、法律的な素養を離れた一般的な素養ということになると、その差は歴然としてきます。
そして、この一般的な素養に秀でた弁護士であるか否かを見極めることこそが弁護士の見分け方の第二のポイントになります。
イメージがわきづらいと思いますので、一例を挙げますと、例えば交通事故の被害者が弁護士に対して相談を求めてきたとします。
その内容は、交通事故で怪我をしたので、損害賠償請求をしたいというものですが、ここで弁護士が民法709条の不法行為の説明をしたり、自賠法3条の運行共用者責任の説明をするのはある意味当然です。なぜなら、これは法律の問題だからです。
ところが、交通事故には単なる法律問題だけでは処理ができない問題が沢山あります。
例えば、治療の必要性を判断したり、後遺障害の認定の妥当性を判断したりするためには、ある程度の医学的な知識が必要となりますし、過失相殺(平たく言えば損害にあたって双方の落ち度を考慮する考え方)を判断するにあたっては、自動車の挙動などについて精通している必要があります。
そのような知識がなければ、今後の見通しなどについて説明することはできません。
離婚についても同様で、法定離婚原因などの説明はある意味弁護士であれば誰でもできますが、例えば不動産を財産分与した場合の税金の問題などは重要な問題なのに、知識として知らない弁護士も中にはいます。
また離婚調停事件などでは特にそうですが、そこで活動するプレーヤー(申立人本人、相手方本人、代理人弁護士、調停委員、審判官、調査官)の立場を深い洞察力をもって理解するためには、心理学的な素養が必須の要件となります。
このように、弁護士は単なる法律を語るだけではなく、幅広い素養を前提として、広い視野で問題の本質を理解し、これを説明する能力が必要なのです。
ちなみに、現職の裁判官も「民事訴訟実務と制度の焦点」(判例タイムズ社)で、「幅広い教養に支えられた視野の広さ、人間性に対する洞察力、社会現象に対する理解力等」が、「裁判官のみならず、研究者をも含めた法律家全般に求められる識見といってよいであろう」と述べております。
では、弁護士には一般的な幅広い素養が必要であるとして、現実に法律相談をした際、どの点に着目して弁護士の素養の有無を見極めればよいのでしょうか。
多少比喩的ですが、「相談者との会話がスムーズにつながる弁護士」は素養について最初のハードルをクリアしていると言えるでしょう。
少し具体的に説明しますと、弁護士は例えば法律相談に臨むにあたり、事件の背景などもできるだけ理解するように努力をしますが、そのためには、相談者の説明の字面をただ負うだけでは駄目で、その言葉の本質的な意味を理解しようとします。
そして言葉の本質的な意味を理解することで、はじめて、相談者に対して次の会話につながる質問を投げかけることができるわけです。
なお、言葉の本質的な意味を理解するためには、その言葉が描く事情に対する深い知識及び洞察力が必要です。
例えば、三浦半島の葉山の方が相続の問題について相談に来られたとしましょう。この時、弁護士が三浦半島の地勢や時価などについて前提となる素養がないとしたら、例えば法定相続分は何分の1であるとか、特別受益、寄与分と行った説明をするだけになってしまう可能性がありますよね。
他方例えば葉山のこの辺りは崖地が多くて、売却しようとしても買い手がつかない可能性があるな、といった知識があれば、それを前提として妥当な解決方法を提案することが可能になるわけです。
そしてそういう説明ができるということは、相談者との会話がスムーズにつながっていくことになるわけですね。
つまり弁護士と相談者の会話がスムーズにつながるということは、弁護士の深い素養の表れであるともいえるわけです。
これまでしばらくの間、遺産分割の豆知識をお話ししてきましたが、今回は少し趣向を変えて
弁護士の見分け方、選び方についてお話ししてみることにします。
さて、弁護士の見分け方にも色々とありますが、私がおすすめする弁護士は、「リスクを丁寧に
正直に説明できる弁護士」です。
リスクとは、もちろん敗訴リスクもありますが、他にも所得税や贈与税といった公租公課の問題であるとか、裁判をすることで当事者の関係が悪化するリスクであるとか、そういった具体的なものです。
こういったリスクを正確に分析し、正直にお伝えすることのできる弁護士は、信頼できる弁護士といってもよいでしょう。
もう少し説明しますと、法律相談でよく相談者から聞かれるのは、「この事件勝てますか?」といったものです。
もちろんこうした勝てるか勝てないかの可能性を判断するのが弁護士の仕事ですし、これがメインであるとも言えるのですが、事件というのは勝つか負けるかという二元論で割り切れるものではなく、それこそ多様な利害が交錯するややこしい問題を常に抱えています。 こうした中で、相談者にとってリスクとなり得る問題を探し出し、与えられた情報の中で生じうるリスクを発見し、これをわかりやすい言葉で説明ができる、というのが実は弁護士に求められた重要な役割の一つであると言えます。
ところが、事件の中からあり得るリスクを抽出するためには、素養の一つとして、広い視点で物事を分析する考え方を持ち合わせている必要があり、それができる弁護士は正直限られているように思われます。
またリスクを説明するというのは、事件が受任できない可能性を増やすことになりますので、それでもリスクを説明してくれる、というのはある意味正直で誠実な弁護士であるといえます。
ですから、事件の相談を受けて、事件そのものから生じるリスクを正直に説明できる弁護士は、能力的にも人間性としても信頼できる弁護士であるということができるのです。
ですので、初めて法律相談をした時は弁護士の先生に、「この事件で考えられるリスクは何ですか」、と一度聞いてみて下さい。
丁寧にかつ明確に、正直にリスクを説明できる弁護士は、まず「良い弁護士」の最初の条件をクリアできていると言えるでしょう。