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離婚事件と財産分与の続きです。
今回は生命保険の解約返戻金が離婚時にどのようにして分割されるかがテーマです。
1 財産分与の対象となるのは?
まず生命保険にはいわゆる掛け捨ての保険と積立式の終身保険など色々な種類がありますが、離婚時の財産分与で問題となるのは、積立式の終身保険のような解約返戻金が発生する保険です。
言い換えれば解約返戻金が発生する保険であれば、生命保険に限らず、損害保険も学資保険も財産分与の対象となり得ます。
そして財産分与の基準時は、別居時の解約返戻金相当額です。
ただしこれはあくまで婚姻期間中に新たに生命保険に入り、夫婦の給与から保険料を捻出していたような典型的な場合を前提としています。
つまり、結婚前から保険料を支払っていた場合や、他の親族が代わりに支払っていたような場合は当然には解約返戻金全額が財産分与の対象となるわけではない、ということになります。
2 結婚前から保険料を支払っていたような場合
それでは、結婚前から保険料を支払っていたような場合、保険の解約返戻金はどのように分割されるのでしょうか。
正解というものはないのですが、よく行われている方法は、別居時の解約返戻金の金額に、保険の払い込み期間を分母として、婚姻期間(厳密には別居時までの期間)を分子として計算した割合を掛け合わせて算出された金額を財産分与の基礎とする、というものです。
あるいは支払った保険料の割合で計算することもあります。
これは例えば、保険料の割引に期待して結婚前に一括で保険料を支払った場合などに用いられます。
退職金に近い分割方法ですが、ある程度ご年配の方の離婚事件になると、生命保険などの解約返戻金が多額に上る場合があり、かつご年配になると、新たに生命保険を契約し直すことが難しくなりますので、その清算は意外に困難を伴うことがあります。

3 視点を移動して冷静に事件を眺めるとうまくいくことがある
既に繰り返しお話ししているところでありますが、特に家事事件においては、ある1点にこだわってしまうと、結果として自分にとって有利な解決が望めないことがあります。
これを生命保険と財産分与について考えますと、一方当事者が生命保険の解約返戻金は財産分与されるべきだ、との考えに固執してしまったため、相手方の「新たに契約することは年齢的にも既往症的にも不可能だから、解約だけは勘弁してくれ」との主張との間でお互いの意見が硬直化し、それだけの理由で財産分与の話し合いが頓挫する、といった場合もあったりします。
しかし、このような場合でも、例えば他の預貯金の分与で調整するなどすれば、案外保険を解約せずともうまく財産分与ができたりする場合もあります。
私も常に自らに言い聞かせていることではありますが、「視点を移動して冷静に事件を眺めること」が大事です。


これまで何回かにわたって離婚事件と財産分与の話をして参りましたが、今回はよく質問を受けることが多い「自宅の財産分与」がテーマです。
1 財産分与のおさらい
まず自宅の財産分与についてお話しをする前に、財産分与について軽くおさらいをしますと、離婚に伴う財産分与は夫婦の共同財産について行われるのが原則です。
これを「清算的財産分与」といいますが、分与割合は双方の夫婦の寄与率によって決められます。
といいますが、実際のところは2分の1の基準が変わることは余りありません
実際の調停や裁判では、特に夫の側から「妻は専業主婦だから寄与率は2分の1に満たないはずだ」といった主張がなされることがありますが、主観的な思いは別として、これによって妻の寄与率が40%になったり、30%になったりすることはまずありません。
また財産分与には「清算的財産分与」のほかに「扶養的財産分与」という考え方があります。
「扶養的財産分与」は、特に若い夫婦で清算的財産分与では一方当事者が十分な財産を受けられない場合によく主張されますが、財産分与はあくまでも「清算的財産分与」が原則で、「扶養的財産分与」は補充的な考え方であるとされていて、調停でそれだけを主張したとしても、なかなか受け入れてもらえないことが多いですね。
むしろ、相手方の特有財産の主張を牽制する目的で、扶養的財産分与の考え方を持ち出したりします。
また例えば慰謝料や、未払婚姻費用の精算を利用するなどして全体の支払額を調整することも多く行われるので、余り扶養的財産分与の主張を強調する必要がなかったりもします。
ケースによって異なってくるのですが、いずれにしても、あるテーマだけに固執して相手から何らかの妥協を引き出すようなやり方は、当事者の立場に圧倒的な力の差がない限り徒労に終わることが多いような気がいたします。
むしろ、一つの方法だけに固執せず、様々なカードを同時に用意することの方が重要です

 

2 自宅の財産分与の判断要素
さて、話が脱線しましたが、自宅の財産分与の話に戻します。
なお今回は、自宅が夫婦共同の財産であり、かつ財産分与の方法が清算的財産分与であることを前提とします。
この場合、判断すべき要素は沢山あるのですが、まずは
① 住宅ローンは残っているか
② オーバーローン(住宅ローン残高が自宅の時価を上回っている場合)にあたらないか
③ 自宅に誰が住んでいるか
の3点が重要なポイントです。
3 住宅ローンが残っていない場合
まず、住宅ローンが残っていない場合は、
① 自宅を売却して諸費用を差し引いた残額を当事者で分ける
② 売却せず、相手方の寄与率に相当する金額を一方が負担することによって清算する
③ そのまま共有のまま残す(登記簿上共有になっている場合)。
の3つのやり方が考えられます。
「共有のまま残す」、というのは何の解決にもなっていないように見えますが、特に自宅にどちらか一方が居住している様な場合や子どもがいるような場合に次善の策として取られることがあります。
つまり、売却そのものが難しいような場合です。
なお、例えばご年配の夫婦が離婚するような場合は、いずれ子どもが相続するからという理由で、共有のままで残しておくこともあります。
不動産の分与は非常に難しい部分があり、感情的な対立も生じやすいので、とりあえず離婚を優先して後回し、というケースもあるわけですね。
残りの、①②は実際の離婚の話し合いでもよく行われている手法です。ただ自宅に現時点で誰が居住しているか(③)、その他の分与財産によっても異なってきますので、何が最善かという答えはありません。
代理人弁護士の力の見せ所です。
4 住宅ローンが残っている場合
(1)オーバーローンでない場合
次に、住宅ローンが残っている場合ですが、オーバーローンでない場合は、
① 自宅を売却して、諸費用住宅ローン分を控除した残額を分ける
② 自宅の時価から住宅ローン分及び諸費用分を控除した残額を計算し、相手方の寄与率に相応した金員を支払うことによって清算する
③ そのまま共有のまま残す(登記簿上共有になっている場合)
の3つの方法が考えられます。
積極財産が残るわけですから、住宅ローンがない場合と同じような処理が可能なわけです。
(2) オーバーローンの場合
これに対し、オーバーローンの場合は少しやっかいです。この場合、住宅ローンの残高から自宅の時価を控除しても、住宅ローンが残ることになります。
例えば自宅が5000万円の時価であるとして、まだ6000万円の住宅ローン残が残っているとすると、1000万円の住宅ローン債務が残ってしまうことになります。
したがって、今まで説明した①売却して諸費用等を控除した残額を分配する、②理論的に当事者の分配分を計算してこれを一方当事者が支払うことで清算する、の手法はとりづらいことになります。
さてどうするかですが、まず考えられるのは、
とにかく売却する、という方法です。
この場合、オーバーローンですから、どうしても住宅ローンの残債が残ることになります。
そのため今後は住宅ローンについて一方当事者が支払を続けていくことになりますが、ここで問題となるのは、残った住宅ローンの残債も消極財産であり、夫婦共同財産であるから、当事者の一方も負担すべき義務があるのではないか、という点です。
夫婦共同財産が財産分与の対象となる以上、夫婦が共同生活を維持するために形成した債務も当然財産分与の際に考慮すべきことになりますので、理屈の上では当事者の一方も負担しなければならない、との結論に落ち着きそうです。
しかし、実務では、実際に債務を分与するといった場合に、具体的にどのような形で(裁判所が)財産分与を命じるか、はっきりしない部分がありますし、債権者(金融機関)を含めた三者間の法律関係が複雑になるという問題があります。
そのため、特に住宅ローンの債務について、これを財産分与の対象とするか否かについては、現状として積極説と消極説が対立しています。
この点現状では、消極説が有力ですが、実質的には夫婦の共同債務と同視すべきであるとする積極説もまた有力です
例えば先に述べた例では、1000万円の債務超過金を夫(元夫)が支払ったとして、夫(元夫)が妻(元妻)にその一部を負担してくれと求めた場合、消極説に立てば基本的にはそれに応じる必要がないことになりますが、積極説に立った場合は、内部的な負担割合にしたがって元妻が元夫に金員を支払うなどの対応がとられます(もちろん、積極説をとったとしても、その処理は一義的に定まるわけではありません。逆にいえば、その処理が難しいところが積極説の欠点であるともいえます)。
このように、住宅ローンが残ってしまった場合の処理は、実に複雑な問題を抱えているのですが、消極説と積極説の対立があることからわかるように、法律的に一義的に結論が定まっているわけではありません。
また、いずれの立場に立とうとも、合意で処理方法を定めることは当然可能ですし、衡平を失するような場合は例外的な処理がないわけではないことは理解して下さい。
例えば、消極説を前提として夫が将来の住宅ローンを負担するが、その代わりに、その他の財産分与については、少し夫に多めに取らせる形で衡平を実現する手法を取ることがあります。
杓子定規ではないですが、これが逆に言えば家事事件の特徴であるともいえますね。
なお、住宅ローンの財産分与を考えるにあたっては、ローンの債権者である金融機関の立場も十分理解しておく必要があります。
すなわち、住宅ローンの債権者である金融機関(例えば銀行)の立場からすると、債務者は住宅ローンの契約の名義人ですから、夫婦の一方が債務者や連帯保証人、物上保証人でない限り、金融機関が、潜在的な負担部分があると考えて名義人でもない当事者に対して債務の支払を請求したり、担保の履行を行ったりすることはありません。
よく、住宅ローンの契約書に何も自分の署名捺印がないのに、金融機関から請求されるのではないか、と不安に感じている方がおられますが、基本的にそのようなことはないと考えて頂いて結構です。
さて、今までは売却した場合についてでしたが、売却せず、住宅ローンは支払いながら、夫婦(元夫婦)のどちらか住み続けるという場合について考えてみましょう。
実際にはこのやり方が最も多く取られているかもな、と経験的には感じます。
例えば子どもがまだ未成年で、学区の関係で自宅を離れたくない場合とか、仕事の関係で移れない場合とか、自治会の役員をやっているので任期まで売却を待ってくれ、など色々な都合があるわけですが、どうせ自宅を売っても住宅ローンしか残らないのであれば、少しでも住んでいた方が得だ、という考えもあるわけですね。
ただこの場合、住宅ローンの支払を行っている側と自宅に居住している側が一致していればさほどのトラブルも有りませんが、一致していない場合は、後でトラブルにならないように、
① いつまで自宅に居住できるか
② 明渡期限が過ぎた場合の清算の方法
③ (場合によっては)居住する側の賃料負担
などについて予め取り決めをしておいた方がいいです。
将来的には他人になってしまうわけですから、やはり契約関係で縛りをかけておくべきだ、ということです。
以上ざっくりと説明して参りましたがいかがでしたでしょうか。
自宅の財産分与はお互いの利害が鋭く対立する難しい問題です。うまくいくとは限りませんが、法律の知識と交渉技術をたくみに利用して最善の解決案を考えてみてはいかがでしょうか。


前回は、別居後、離婚が成立する前に夫婦共同財産が処分されることをどうやって防止するのか、について説明いたしましたが、今回は、別居前に一方配偶者によって夫婦の財産が処分された場合、どのように対応するかについて説明いたします。
この問題については、明確な答えがあるわけではなく、それこそケースバイケースになります。
1 事前の対策
まず、事前の対応としては、形式上は「審判前仮処分」の線があります。
しかし、今回は別居前の話であり、離婚の蓋然性がどこまで認められるか若干疑問です。
いずれにせよ、別居後の申立にくらべてハードルが高いことは否めません。
そのため、この問題についてはどちらかというと予防法務的な対策、例えば、一方当事者の預金の残高や推移を逐一確認しておく郵便物の種類に敏感になる(例えば株式を購入していたならば、4月頃から6月頃にかけて株主総会招集通知が来ることが多いので、それで購入の事実がわかります。投資信託も同様です)などが中心となります。

2 事後的な対策
事後的な対策は一層限られてくるのですが、まず、ある銀行から他の銀行に財産が移されていたような場合は、移された先の銀行の預金が財産分与対象となるわけですから、まずその口座を発見することが先決となります。
既存の銀行口座で何か変わった点はないか、例えば知らない口座の記載はないか、光熱費の自動振込口座に変更はないか、そういった違いを発見し、新しい口座の発見に結びつけます。
次に、財産が親族など第三者の口座に移されていた場合ですが、これについては、なかなか対処が難しいですね。
ただ、裁判所もこの問題には関心があるようで、「破産における否認権行使と同様の扱いが適用される」として、移された財産についても分与の対象となると判断した裁判例も中にはあります。
この点、「破産における否認権行使」とは、要するに破産手続開始決定前に、破産債権者を害する行為があった場合、例えば、財産隠しなどがなされたような場合に、一旦流出した財産を事後的に取り戻す制度であり、その趣旨からすれば、破産における否認権行使と、別居前に流出した財産の取り戻しとは同様に理解できると裁判所は考えたのでしょう。
かなりテクニカルな方法であり、一般的であるとは言えませんが、そのような考え方もあるということで、紹介いたしました。


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以前、離婚事件と財産分与②(分与対象財産はいつの時点の財産を基準にするか)で、預貯金などについては別居時を基準としておおむね運用されていることについて説明しました。
別居時を基準とする、との考え方はそれなりの合理性があるのですが、基準時をどのように考えたとしても、実際に財産分与を受けるまでは様々なリスクがあります。
もっとも大きなリスクは、離婚に向けての話し合いをしている最中に、分与対象財産を管理している当事者が、勝手に預金などを引き出し、離婚成立の段階で対象となる預金の残高をゼロにしてしまうことです。もはやこれは「信義」の問題であると思うのですが、これは別居から離婚成立までの期間中に、一方当事者の財産費消に対する具体的な歯止めが取りづらいことに原因があります。もちろん、例えば調停や公正証書、判決には強制執行ができる効力(執行力といいます)がありますから、それらが成立すれば相手方の財産に対して強制執行をすることができますが、財産を費消するような相手方は強制執行を見越して事前対策をしていることが多く、功を奏しない場合が多いのが現状です。
そこで事前に対策を立てておく必要があります。
まず一つは、審判前の保全処分として預貯金等の仮差押を行うことです。
ここでいう仮差押とは、審判が下される前に財産が処分されることを防止するために、一時的に預貯金の引き出しができないようにしてしまうことです。
ただし、審判前保全処分は、要するに相手方の財産の自由な処分を強制的に制限することになりますから、財産の保全が認められるためには、保全の必要性、緊急性に加え、離婚の審判が認められる蓋然性などの要件を満たす必要があります。
また、相手方の財産の処分を制限する代わりに、保全を申し立てる人は、担保として裁判所が定めた保証金を法務局に供託する必要があります。
加えて、「審判前の保全処分」ですから、保全をするためには、後に審判を起こさなければなりません。
また、何よりも、相手の財産の処分を制限するわけですから、相手方の関係が険悪になることは必至ですので、申立をすると、その後の話し合いにとって障害になることがあります。
つまり、その使用には十分な注意が必要なのです。
そのほか、通常の民事保全を使う方法や、調停前仮処分などの方法がありますが、例えば調停前仮処分は審判前仮処分と異なり強制力がありませんので、いまいち使い勝手が悪いのが実情です。
「帯に短したすきに長し」。結局は当事者同士の信義に頼っているというのが、今でも主流であると言えるのですが、昨今相手方に代理人がついていても財産の散逸化、及び処分が行われる例がちらほら見られるようになりましたので、そろそろある程度のリスクを負ってでも審判前仮処分などの強制手段を積極的に用いる時期にきているのかな、と感じております。
何となく寂しい話ですが、依頼者の利益の実現のためには仕方がないことです。


前回は、財産分与でよく問題となる「特有財産」(一方当事者の固有財産)について、概要をご説明しましたが、今回は各論として、よく問題となる事例について説明することといたします。
テーマは、不動産の財産分与と特有財産です。
そもそも離婚の際に不動産をどのようにして財産分与するかは、住宅ローンや居住の利益等も絡んでややこしい問題です。
特に、不動産の購入に際して、例えば配偶者が結婚する前から貯めていた定期預金を取り崩すなどして頭金にあてたり、配偶者の両親が頭金の一部を支払ってくれたりした場合の財産分与の計算は、特有財産も絡み難しい問題があります。
なお昨今、直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税制度が成立いたしましたので、今後親から住宅資金が援助される場面が多くなることが予想されますから、離婚の際にこれらの事情がどのように考慮されるかは、ますます重要になってくるといえるでしょう。
さて本題ですが、一般的によく用いられる計算方法は、不動産購入に関する貢献度を割合で定め、それを現在の価値に引き直して財産分与額を計算する手法です。
一例を出しますと、例えば、5000万円の一戸建てを夫婦が購入したとします。
頭金が例えば2000万円であったとして、そのうちの1000万円を妻が父から贈与を受けて支払い、残りの3000万円は夫婦が住宅ローンとして支払い、ローンは完済したとします。
さて妻が父親から受領した1000万円は妻の特有財産ですので、これを5000万円から差し引きますと、4000万円が夫婦が共同して築いた財産となります。
そしてこの夫婦が共同して築いた財産の部分を割合に置き換えますと、4000万/5000万×100=80%となります。
対して、特有財産の割合は、1000万/5000万×100=20%になります。
これを総合すると、今回の不動産購入に対する夫と妻の貢献度を割合で換算しますと、夫は80%を半分にした40%、妻はこの40%に20%の特有財産部分を加算した60%になります。
そして本件不動産の現在の価格が仮に3000万円であるとすると、夫の取り分は1200万円(3000万円×40%)、妻の取り分は1800万円(3000万円×60%)になります。
この具体例は住宅ローンが完済されていることを前提としており、例えば住宅ローンが完済されていないような場合はもっと複雑な計算になります。
また、これまで述べた計算方法はあくまで一例ですので、調停や裁判手続の全てでこの計算方法が用いられているとは言い切れません。
ケースバイケースの場合もあるので、詳しくは弁護士にご相談されるといいでしょう。


今日は、離婚と財産分与の中で特にお問い合わせが多い「特有財産」について、まず概要をお伝えすることといたします。
いままで年金分割でかなり専門的な話をしたので、今回は少し肩の力を抜いた話をすることとしましょう。
まず一般論として、財産分与の対象財産は、ようするに夫婦が協力して汗水垂らして貯めた財産です。
これは逆に言えばそれ以外の財産、例えば相続によって承継した財産や、婚姻中に他から受けた贈与、婚姻前からの預貯金などは分与対象財産から外れます。
これを特有財産(一方配偶者の固有の財産)といいます。
この特有財産を巡る争いは、離婚事件のなかでも揉める問題の一つです。
これは当たり前と言えば当たり前ですが、離婚の話し合いをしているということは、その多くがすでに信頼関係が失われた夫婦ですので、当事者としては、好きではない相手方には、できるかぎり自分の名義のお金や財産は渡したくない、というのが人情ですし、この点特有財産にあたれば自動的に財産分与の対象とならないわけですから、みなさん頑張るわけですね。
ただ、特有財産にあたることの立証の責任はこれを主張する側にありますから、単に「これは特有財産にあたります」と説明しても、裁判所や相手方は「で、それで?」と相手にしてくれません。
特に婚姻中に得た財産はとりあえず、夫婦の共同財産と推定されてしまいますので、特有財産であるというためには、それを覆す具体的な証拠や説得的な説明が必要です。
過去の預金通帳や贈与契約書、遺産分割協議書などを提出するなどして、裁判所や相手方を説得する作業が必要となります。
また、社会一般的にはもうこれは特有財産といってもいいのではないか、と思われるものも、理屈を辿ればやっぱり夫婦共同財産だよね、といわれてしまう事例がいくつかあります。
そういう意味でも油断ができないのが「特有財産」です。
一例を挙げると、例えば、離婚の当事者の一人が、法テラス(日本司法支援センター)を使って弁護士を選任したとしますね。
この点、法テラスは別に弁護士費用が無料になるわけでなく、まず法テラスが立て替え払いをして、その後申し込んだ方がその費用を分割で弁済していくということになるのですが、その際法テラスからは、分割弁済用に、ゆうちょ銀行の口座を作って下さいと言われることがあります。
法テラスはゆうちょ銀行の自動引き落とし機能を使って、分割弁済をしてもらうのですね。
ところが、申込者が、法テラスの依頼でゆうちょ銀行の口座を作って、最初の分割弁済のため、例えば5000円を預け入れたとすると、その預け入れが別居の前だと、形式上は夫婦共同財産であるとされ、財産分与の対象となる可能性があるのです。
ちなみにこの5000円は、要するに離婚を実現するため、あるいは離婚を阻止するための軍資金であり、社会常識的に見て夫婦共同財産ではないですよね。ただ、これも元を正せば夫婦由来の金だということで、なんと分与されてしまうことがあるわけです。
ですから、法テラスを使って離婚をしようとする方は、ゆうちょ銀行の口座残高に注意する必要があります。
(次回に続く)


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これまで年金分割の制度についてかなり詳しく説明してきましたが、合意分割で按分割合について合意が成立し、その旨の書類が整ったとしても、それだけでは年金分割が完了したことにはなりません。
年金分割を完成させるためには、原則として離婚成立日の翌日から2年以内に、申し立てる人の住所地を管轄する年金事務所で、年金分割改定の請求(年金分割請求)をしなければなりません。
1 合意分割の場合
まず合意分割について説明しますと、離婚成立後、年金分割を求める人は、年金事務所に対して
① 標準報酬改定請求書(年金事務所に備え付けています)
② 請求者の国民年金手帳、年金手帳、又は基礎年金番号通知
③ 戸籍謄本、戸籍抄本等の婚姻期間等を明らかにできる書類
④ 以下のいずれかの書類
年金分割請求をすること及び請求すべき按分割合について合意している旨を記載し、かつ、当事者自らが署名した書類
公正証書の謄本若しくは抄録謄本
公証人の認証を受けた私署証書
調停調書の謄本又は抄本
審判書、判決書の謄本又は抄本及び確定証明書
を予め準備した上で、申し立てる必要があります(あくまで一般的に必要とされる書類であり、詳しくは年金事務所にお問い合わせください)。
その際、念のため印鑑と身分証明書(免許証など)も持って行った方が、安全です。
2 3号分割の場合
他方3号分割の場合も、年金分割改定の請求(年金分割請求)が必要です。
必要書類としては、
① 標準報酬改定請求書(年金事務所に備え付けています)
② 請求者の国民年金手帳、年金手帳、又は基礎年金番号通知
③ 戸籍謄本、戸籍抄本等の婚姻期間等を明らかにできる書類
になります(あくまで一般的に必要とされる書類であり、詳しくは年金事務所にお問い合わせください)。
さて、以前もお話ししましたが、合意分割と3号分割の両方の申立が必要な場合の年金分割手続ですが、合意分割の請求で3号分割についても分割請求がおこなわれたとみなされます。よって、この場合でも、合意分割の年金分割請求書1枚だけを提出すればよいことになります。

3 その後の手続の流れ
その後、按分割合に基づき、当事者双方の年金記録の改定が行われ、改訂後の年金記録が、標準報酬改定通知書の形で当事者双方に交付されることになります。
以上が大まかな手続ですが、最後に一つ。
よく法律相談で、年金分割された後、年金を受け取る年齢になる前に元夫が死亡した場合は、厚生年金の分割が受けられなくなるのか、といった質問を受けることがありますが、その心配はありません。
分割されるのは年金記録であり、元夫の年金受給権ではありません。
つまり、年金分割がなされた時点で、分割を受けた側は改定された年金記録に基づく自分自身の年金受給権を持つことになりますので、その後元夫が死亡した場合でも、年金受取の可否に影響はないのです。


これまで、年金分割の話をしてまいりましたが、誤解を避ける意味で、財産分与と退職金の話をします。
まず、退職金といっても、その内容は退職給付金であったり、確定拠出年金のかたちで運用されていたり、色々あると思いますが、
これらが財産分与の対象になるかどうかは、実は明確なラインが決まっているわけではありません。
一般的には、数年後に退職するような場合は財産分与の対象になり、10年後、20年後の退職金については財産分与の対象とはしない、
という運用がなされているようですが、私の経験上、退職が10年以上先であっても、財産分与の対象とした事例も複数ありますので、何ともいえないというのが実情です。
ですから、退職金(確定拠出年金も含む)については、仮に退職が随分後であったとしても、財産分与の対象として議論されることがある、結局は個別事情による、ということだけは覚えておいて損はないと思います。

アガバンサス (神奈川県立フラワーセンター大船植物園)


さて、退職金が財産分与の対象となるとした場合、具体的にはどのような基準で財産分与がなされるのでしょうか。
これも一致した見解があるわけではありませんが、よく用いられているのは、別居時点で自己都合で退職したと仮定した場合の見込み退職金を基準に、それに婚姻期間の割合を掛け合わせた金額を分与対象財産とする、という運用です。
具体的に説明しますと、夫は22歳の時に就職、30歳で結婚し、40歳で離婚したとします。
わかりやすく説明するために、月数は考慮しないとすると、夫の独身期間は8年、婚姻期間は10年、全稼働期間は18年ですよね。
この場合、ざっくりいけば、割合は10年/18年=5/9になります。
そして、離婚時点(別居時点)での退職金が仮に900万円であるとすると、その5/9の500万円が財産分与の対象となる、というわけです。
もう一つの方法は、将来支給される退職金の額を現在の額に引き直した上で、婚姻期間の割合を掛け合わせた金額を分与対象財産とする手法です。
今までご説明してきた手法は、離婚時点(別居時点)での退職金が基準となりますが、今回の手法は、例えば60歳で退職が予定されているとして、その60歳時点での退職金の見込み額を前提に、これをライプニッツ係数を用いて現価を算出するなどして、現時点での支給額に引き直す、というところに特徴があります。
ライプニッツ係数とは、例えば現時点での100万円と10年後の100万円とは価値が異なるという考え方を前提に、その期間中の利息を控除するために編み出された数字です。
難しい言葉ですが、じつはライプニッツ係数とは例えば交通事故に基づく損害賠償請求ではよく用いられる数値であり、色々な書籍にその数値がのっていますので、計算自体は難しいことではありません。
このように退職金を財産分与の対象とするか否かについては、一義的にルールが定まっているわけではなく、その計算手法もまちまちです。
今回は代表的な手法を説明いたしましたが、興味がある方は弁護士に相談するなどして理解を深めてみるのもいいでしょう。


前回は、夫婦が合意分割の分割割合(按分割合)について合意し、これを公正証書や公証人による認証の形でまとめる方式について説明しました。
今回は、夫婦の合意ではまとまらず、やむをえず裁判所の力を借りて分割割合を決定する手続について説明いたします。
なお、繰り返しになりますが、年金分割の中でも3号分割では、そもそも分割割合について合意する必要はありません。ただ、3号分割の対象となる年金記録は平成20年4月1日以降の第3号被保険者期間の年金記録に限られるので、そこは注意して下さい。
1 年金分割の割合を定める調停 
さて、分割割合でまとまらない場合にどうするかですが、最初の選択肢は「年金分割の割合を定める調停」です。
この点、この年金分割の割合を定める調停は、離婚が既に成立していて決まっていないのが分割割合だけ、という場合や、離婚や他の条件(親権や財産分与、養育費など)では合意しているけれども、年金分割だけ合意できていない、といった場合に申し立てられるのですが、これは逆に言えば、離婚やその他の条件の話し合いがまとまっていない場合は、これらの調停(離婚調停)と併せて申し立てることもできるということですので注意してください。
① 申し立てる場所
申し立てる場所は、相手方の住所地を管轄する裁判所か当事者が合意によって定める家庭裁判所です。
例えば、相手方が横浜市戸塚区に住んでいれば横浜家庭裁判所に申し立てることになります。
② 申立書の作成方法
どうやって申し立てるかですが、家庭裁判所に行くと「家事調停(請求すべき按分割合)申立書」という決まった書式がありますので、そこの「申立の趣旨」の「申立人と相手方との間の別紙(☆)      記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を、(□0.5/□(     ))と定めるとの(□調停/□審判)を求めます」という記載を確認した後、そこの(☆)の部分には「年金分割のための情報通知書」という言葉を記載し、「0.5」「調停」とある部分にチェックマークを入れてください。
0.5にチェックをいれるのは、合意分割の分割割合の上限が0.5であり、実際に調停や審判で定まる分割割合は0.5がほとんどですので、ここであえて不利な割合を記載する必要がないからです。
他にも書くところはありますが、家庭裁判所でも色々と教えてくれますし、弁護士に相談すれば書面の作成などのヒントも教えてくれることでしょう。
③ 申立てに必要な書類
次に申し立てに必要な書類ですが、①戸籍謄本、②年金分割の為の情報通知書
になります。
④ 申立の費用
よく聞かれる年金分割の割合を定める調停の費用ですが、収入印紙1200円分と郵便切手でだいたい800円程度(80円切手×10枚くらい)です。
ここまでそろえた 上で、家庭裁判所に調停の申立をすることになります。
2 年金分割の割合を定める調停の進め方
家庭裁判所での申立が受理されますと、いよいよ調停の期日が定められることになります。
調停期日では、男女2名の調停委員(多くは40代から60代くらいまでの社会経験豊富な一般の方です)が間に入って分割割合について双方の調整を図っていくことになります。
ただ、年金分割割合に限って言えば、ほぼ全てが0.5という形で運用されていますので、調停自体も結局は0.5でまとまるように、何とか相手方を説得するという形で行われることが多いですね。
それでも話がまとまらないこともありますが、この場合は、原則として審判に移行し、その後は審判官(裁判官)が、職権で割合を定めることとなります。
この場合余程のことがない限り、割合が0.5を下回ることがありません。
なお、一つだけ注意していただきたいことがあります。
これは、年金分割の請求手続は、原則として、離婚をした日の翌日から起算して2年を経過した場合には、することができないこととされているので、この期限を過ぎた場合には、家庭裁判所に対して調停の申立てをすることはできないということです。
つまり期限がありますので、十分注意して下さい。
ところで、そうだとすると、調停をしている間に2年が過ぎた場合はどうするかが心配になりますね。
この場合には、調停が成立した日の翌日から起算して1か月を経過するまで年金分割の請求をすることができます
心配はいりませんが、この場合も「1か月」という期間制限には注意しなければなりません。
3 調停調書
めでたく調停で分割割合について合意すると、申立人と相手方、審判官(裁判官)、書記官、調停委員が同席のうえ、審判官が合意した内容をを読み上げ、これを書記官が調書にまとめる形で調停が成立します(場合によっては申立人と相手方が同席しないこともあります)。
「読み上げ」というと違和感がありますが、これは本当で、「申立人と相手方との間の別紙記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定める」と述べ、これを書記官が調書化して調停が終了することになります。
調停員も代理人弁護士もほっとする瞬間ですね。
その後、書記官から年金分割の際に必要となる調書の交付(受け渡し)について説明がなされ、必要な印紙(書記官に教えてもらえます)を買って交付申請をし、後日調書を郵送か手渡しで受領した後、年金事務所で年金分割の手続をすることになります。
かなり詳しく調停の手続を説明しましたが、おわかり頂けたでしょうか?
少しややこしい部分がありますし、調停自体は交渉の場なので、不安な方は一度弁護士に相談するだけでも安心するでしょう。
次回は社会保険事務所での年金分割の手続について説明いたします。


これまで、「離婚と年金分割①」では、年金分割の基礎知識としての年金制度の簡単な説明、「離婚と年金分割②」では「3号分割」の説明、「離婚と年金分割③」では「合意分割」について説明して参りました。
わかりにくい制度を簡潔に説明しなければならなかったので、多少言葉足らずな部分があるかもしれませんが、詳しくは弁護士に相談して頂ければと思います。
さて、今回は、具体的な年金分割制度の手続について説明します。
なぜここで手続の説明?と思うかも知れませんが、実は年金分割は色々な資料を用意しなければならなかったり、資料が足りないことが理由で、改めて役所で書類を取り寄せるなどして、年金事務所での待ち時間が無駄になったり、とにかくいらいらすることがあるからです。
1 年金の按分割合の合意(公正証書の作成の仕方)

説明の順番ですが、今回は、現実には多数派を占めている「合意分割」で必須の手続である「年金の按(あん)分割合(分割割合)」の合意の仕方についてまずは説明いたします。
年金分割の最初のハードルということになりますね。まず、年金の按分割合(分割割合)について定める方法としては、離婚した夫婦が合意の上で割合を定める方法が原則です(合意できない場合は、裁判所を通して按分割合を定めることになります)。
そして、按分割合の合意については、公正証書にするか、合意を記した書面について公証人から認証を受けておくことが必要です
さて、公正証書の作成や公証人からの認証は公証役場で行うことになりますが、そもそも公証役場とは、公正証書の作成、私文書の認証、確定日付の付与等を行う官公庁のことで、大きな町なら大体あります。
公証役場には、「公証人」という方がおり、その方が公正証書を作成したり、書面を認証したりするわけです。
なお、「公証人」には、例えば検察官や裁判官を退官された方など、法曹資格をもっている方が就任することがほとんどです。
そして、年金の按分割合について合意した夫婦は、公証役場に2人で行って公証人の前でその合意について記した公正証書を作成して貰うか、予め合意について記した文書に認証印を押して貰うわけですね。
もちろん、公証には費用が掛かりますが、びっくりするような金額ではありません。詳しくは公証役場に問い合わせてください(おおよそ公正証書だと1万円強くらいかと思います)。

2 年金分割のための情報通知書
さて、公証役場で按分割合の合意について公正証書を作って貰うか認証して貰うためには、もう一つ重要な文書を予め取り寄せておく必要があります。
これは、「年金分割のための情報通知書」です。
この「年金分割のための情報通知書」とは、要するに、今後年金を分割をするにあたっての基本的な情報が記録されている書類であり、制度として、年金分割にあたって按分割合の合意を書面化するためには、この「年金分割のための情報通知書」を添付しなければなりません。
この書面は、社会保険事務所でもとることができますし、郵送でも取り寄せが可能ですが、いずれにしましても、請求には「年金分割のための情報提供請求書」という決まった書式に必要事項を記載し、これに年金手帳、戸籍謄本(抄本)、事実婚期間がある場合は住民票等をあわせて提出すれば、発行されます。
ちなみに、私は年金分割のための情報通知書を依頼者にとってもらうときは、極力社会保険事務所で直接の手続をしてもらうことにしています。といいますのも、年金分割のための情報提供請求書がややこしくて、社会保険事務所の職員とあれこれやり取りしながら書いた方が結果効率がいいからです。
こうしてようやくとれた年金分割のための情報通知書ですが、手間がかかるので、離婚の話し合いをする前に予め取り寄せておいたほうがいいでしょう。
(次回に続く)