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これまで何回かにわたって離婚事件と財産分与の話をして参りましたが、今回はよく質問を受けることが多い「自宅の財産分与」がテーマです。
1 財産分与のおさらい
まず自宅の財産分与についてお話しをする前に、財産分与について軽くおさらいをしますと、離婚に伴う財産分与は夫婦の共同財産について行われるのが原則です。
これを「清算的財産分与」といいますが、分与割合は双方の夫婦の寄与率によって決められます。
といいますが、実際のところは2分の1の基準が変わることは余りありません
実際の調停や裁判では、特に夫の側から「妻は専業主婦だから寄与率は2分の1に満たないはずだ」といった主張がなされることがありますが、主観的な思いは別として、これによって妻の寄与率が40%になったり、30%になったりすることはまずありません。
また財産分与には「清算的財産分与」のほかに「扶養的財産分与」という考え方があります。
「扶養的財産分与」は、特に若い夫婦で清算的財産分与では一方当事者が十分な財産を受けられない場合によく主張されますが、財産分与はあくまでも「清算的財産分与」が原則で、「扶養的財産分与」は補充的な考え方であるとされていて、調停でそれだけを主張したとしても、なかなか受け入れてもらえないことが多いですね。
むしろ、相手方の特有財産の主張を牽制する目的で、扶養的財産分与の考え方を持ち出したりします。
また例えば慰謝料や、未払婚姻費用の精算を利用するなどして全体の支払額を調整することも多く行われるので、余り扶養的財産分与の主張を強調する必要がなかったりもします。
ケースによって異なってくるのですが、いずれにしても、あるテーマだけに固執して相手から何らかの妥協を引き出すようなやり方は、当事者の立場に圧倒的な力の差がない限り徒労に終わることが多いような気がいたします。
むしろ、一つの方法だけに固執せず、様々なカードを同時に用意することの方が重要です

 

2 自宅の財産分与の判断要素
さて、話が脱線しましたが、自宅の財産分与の話に戻します。
なお今回は、自宅が夫婦共同の財産であり、かつ財産分与の方法が清算的財産分与であることを前提とします。
この場合、判断すべき要素は沢山あるのですが、まずは
① 住宅ローンは残っているか
② オーバーローン(住宅ローン残高が自宅の時価を上回っている場合)にあたらないか
③ 自宅に誰が住んでいるか
の3点が重要なポイントです。
3 住宅ローンが残っていない場合
まず、住宅ローンが残っていない場合は、
① 自宅を売却して諸費用を差し引いた残額を当事者で分ける
② 売却せず、相手方の寄与率に相当する金額を一方が負担することによって清算する
③ そのまま共有のまま残す(登記簿上共有になっている場合)。
の3つのやり方が考えられます。
「共有のまま残す」、というのは何の解決にもなっていないように見えますが、特に自宅にどちらか一方が居住している様な場合や子どもがいるような場合に次善の策として取られることがあります。
つまり、売却そのものが難しいような場合です。
なお、例えばご年配の夫婦が離婚するような場合は、いずれ子どもが相続するからという理由で、共有のままで残しておくこともあります。
不動産の分与は非常に難しい部分があり、感情的な対立も生じやすいので、とりあえず離婚を優先して後回し、というケースもあるわけですね。
残りの、①②は実際の離婚の話し合いでもよく行われている手法です。ただ自宅に現時点で誰が居住しているか(③)、その他の分与財産によっても異なってきますので、何が最善かという答えはありません。
代理人弁護士の力の見せ所です。
4 住宅ローンが残っている場合
(1)オーバーローンでない場合
次に、住宅ローンが残っている場合ですが、オーバーローンでない場合は、
① 自宅を売却して、諸費用住宅ローン分を控除した残額を分ける
② 自宅の時価から住宅ローン分及び諸費用分を控除した残額を計算し、相手方の寄与率に相応した金員を支払うことによって清算する
③ そのまま共有のまま残す(登記簿上共有になっている場合)
の3つの方法が考えられます。
積極財産が残るわけですから、住宅ローンがない場合と同じような処理が可能なわけです。
(2) オーバーローンの場合
これに対し、オーバーローンの場合は少しやっかいです。この場合、住宅ローンの残高から自宅の時価を控除しても、住宅ローンが残ることになります。
例えば自宅が5000万円の時価であるとして、まだ6000万円の住宅ローン残が残っているとすると、1000万円の住宅ローン債務が残ってしまうことになります。
したがって、今まで説明した①売却して諸費用等を控除した残額を分配する、②理論的に当事者の分配分を計算してこれを一方当事者が支払うことで清算する、の手法はとりづらいことになります。
さてどうするかですが、まず考えられるのは、
とにかく売却する、という方法です。
この場合、オーバーローンですから、どうしても住宅ローンの残債が残ることになります。
そのため今後は住宅ローンについて一方当事者が支払を続けていくことになりますが、ここで問題となるのは、残った住宅ローンの残債も消極財産であり、夫婦共同財産であるから、当事者の一方も負担すべき義務があるのではないか、という点です。
夫婦共同財産が財産分与の対象となる以上、夫婦が共同生活を維持するために形成した債務も当然財産分与の際に考慮すべきことになりますので、理屈の上では当事者の一方も負担しなければならない、との結論に落ち着きそうです。
しかし、実務では、実際に債務を分与するといった場合に、具体的にどのような形で(裁判所が)財産分与を命じるか、はっきりしない部分がありますし、債権者(金融機関)を含めた三者間の法律関係が複雑になるという問題があります。
そのため、特に住宅ローンの債務について、これを財産分与の対象とするか否かについては、現状として積極説と消極説が対立しています。
この点現状では、消極説が有力ですが、実質的には夫婦の共同債務と同視すべきであるとする積極説もまた有力です
例えば先に述べた例では、1000万円の債務超過金を夫(元夫)が支払ったとして、夫(元夫)が妻(元妻)にその一部を負担してくれと求めた場合、消極説に立てば基本的にはそれに応じる必要がないことになりますが、積極説に立った場合は、内部的な負担割合にしたがって元妻が元夫に金員を支払うなどの対応がとられます(もちろん、積極説をとったとしても、その処理は一義的に定まるわけではありません。逆にいえば、その処理が難しいところが積極説の欠点であるともいえます)。
このように、住宅ローンが残ってしまった場合の処理は、実に複雑な問題を抱えているのですが、消極説と積極説の対立があることからわかるように、法律的に一義的に結論が定まっているわけではありません。
また、いずれの立場に立とうとも、合意で処理方法を定めることは当然可能ですし、衡平を失するような場合は例外的な処理がないわけではないことは理解して下さい。
例えば、消極説を前提として夫が将来の住宅ローンを負担するが、その代わりに、その他の財産分与については、少し夫に多めに取らせる形で衡平を実現する手法を取ることがあります。
杓子定規ではないですが、これが逆に言えば家事事件の特徴であるともいえますね。
なお、住宅ローンの財産分与を考えるにあたっては、ローンの債権者である金融機関の立場も十分理解しておく必要があります。
すなわち、住宅ローンの債権者である金融機関(例えば銀行)の立場からすると、債務者は住宅ローンの契約の名義人ですから、夫婦の一方が債務者や連帯保証人、物上保証人でない限り、金融機関が、潜在的な負担部分があると考えて名義人でもない当事者に対して債務の支払を請求したり、担保の履行を行ったりすることはありません。
よく、住宅ローンの契約書に何も自分の署名捺印がないのに、金融機関から請求されるのではないか、と不安に感じている方がおられますが、基本的にそのようなことはないと考えて頂いて結構です。
さて、今までは売却した場合についてでしたが、売却せず、住宅ローンは支払いながら、夫婦(元夫婦)のどちらか住み続けるという場合について考えてみましょう。
実際にはこのやり方が最も多く取られているかもな、と経験的には感じます。
例えば子どもがまだ未成年で、学区の関係で自宅を離れたくない場合とか、仕事の関係で移れない場合とか、自治会の役員をやっているので任期まで売却を待ってくれ、など色々な都合があるわけですが、どうせ自宅を売っても住宅ローンしか残らないのであれば、少しでも住んでいた方が得だ、という考えもあるわけですね。
ただこの場合、住宅ローンの支払を行っている側と自宅に居住している側が一致していればさほどのトラブルも有りませんが、一致していない場合は、後でトラブルにならないように、
① いつまで自宅に居住できるか
② 明渡期限が過ぎた場合の清算の方法
③ (場合によっては)居住する側の賃料負担
などについて予め取り決めをしておいた方がいいです。
将来的には他人になってしまうわけですから、やはり契約関係で縛りをかけておくべきだ、ということです。
以上ざっくりと説明して参りましたがいかがでしたでしょうか。
自宅の財産分与はお互いの利害が鋭く対立する難しい問題です。うまくいくとは限りませんが、法律の知識と交渉技術をたくみに利用して最善の解決案を考えてみてはいかがでしょうか。