前回は、夫婦が合意分割の分割割合(按分割合)について合意し、これを公正証書や公証人による認証の形でまとめる方式について説明しました。
今回は、夫婦の合意ではまとまらず、やむをえず裁判所の力を借りて分割割合を決定する手続について説明いたします。
なお、繰り返しになりますが、年金分割の中でも3号分割では、そもそも分割割合について合意する必要はありません。ただ、3号分割の対象となる年金記録は平成20年4月1日以降の第3号被保険者期間の年金記録に限られるので、そこは注意して下さい。
1 年金分割の割合を定める調停
さて、分割割合でまとまらない場合にどうするかですが、最初の選択肢は「年金分割の割合を定める調停」です。
この点、この年金分割の割合を定める調停は、離婚が既に成立していて決まっていないのが分割割合だけ、という場合や、離婚や他の条件(親権や財産分与、養育費など)では合意しているけれども、年金分割だけ合意できていない、といった場合に申し立てられるのですが、これは逆に言えば、離婚やその他の条件の話し合いがまとまっていない場合は、これらの調停(離婚調停)と併せて申し立てることもできるということですので注意してください。
① 申し立てる場所
申し立てる場所は、相手方の住所地を管轄する裁判所か当事者が合意によって定める家庭裁判所です。
例えば、相手方が横浜市戸塚区に住んでいれば横浜家庭裁判所に申し立てることになります。
② 申立書の作成方法
どうやって申し立てるかですが、家庭裁判所に行くと「家事調停(請求すべき按分割合)申立書」という決まった書式がありますので、そこの「申立の趣旨」の「申立人と相手方との間の別紙(☆) 記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を、(□0.5/□( ))と定めるとの(□調停/□審判)を求めます」という記載を確認した後、そこの(☆)の部分には「年金分割のための情報通知書」という言葉を記載し、「0.5」「調停」とある部分にチェックマークを入れてください。
0.5にチェックをいれるのは、合意分割の分割割合の上限が0.5であり、実際に調停や審判で定まる分割割合は0.5がほとんどですので、ここであえて不利な割合を記載する必要がないからです。
他にも書くところはありますが、家庭裁判所でも色々と教えてくれますし、弁護士に相談すれば書面の作成などのヒントも教えてくれることでしょう。
③ 申立てに必要な書類
次に申し立てに必要な書類ですが、①戸籍謄本、②年金分割の為の情報通知書
になります。
④ 申立の費用
よく聞かれる年金分割の割合を定める調停の費用ですが、収入印紙1200円分と郵便切手でだいたい800円程度(80円切手×10枚くらい)です。
ここまでそろえた 上で、家庭裁判所に調停の申立をすることになります。
2 年金分割の割合を定める調停の進め方
家庭裁判所での申立が受理されますと、いよいよ調停の期日が定められることになります。
調停期日では、男女2名の調停委員(多くは40代から60代くらいまでの社会経験豊富な一般の方です)が間に入って分割割合について双方の調整を図っていくことになります。
ただ、年金分割割合に限って言えば、ほぼ全てが0.5という形で運用されていますので、調停自体も結局は0.5でまとまるように、何とか相手方を説得するという形で行われることが多いですね。
それでも話がまとまらないこともありますが、この場合は、原則として審判に移行し、その後は審判官(裁判官)が、職権で割合を定めることとなります。
この場合余程のことがない限り、割合が0.5を下回ることがありません。
なお、一つだけ注意していただきたいことがあります。
これは、年金分割の請求手続は、原則として、離婚をした日の翌日から起算して2年を経過した場合には、することができないこととされているので、この期限を過ぎた場合には、家庭裁判所に対して調停の申立てをすることはできないということです。
つまり期限がありますので、十分注意して下さい。
ところで、そうだとすると、調停をしている間に2年が過ぎた場合はどうするかが心配になりますね。
この場合には、調停が成立した日の翌日から起算して1か月を経過するまで年金分割の請求をすることができます。
心配はいりませんが、この場合も「1か月」という期間制限には注意しなければなりません。
3 調停調書
めでたく調停で分割割合について合意すると、申立人と相手方、審判官(裁判官)、書記官、調停委員が同席のうえ、審判官が合意した内容をを読み上げ、これを書記官が調書にまとめる形で調停が成立します(場合によっては申立人と相手方が同席しないこともあります)。
「読み上げ」というと違和感がありますが、これは本当で、「申立人と相手方との間の別紙記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定める」と述べ、これを書記官が調書化して調停が終了することになります。
調停員も代理人弁護士もほっとする瞬間ですね。
その後、書記官から年金分割の際に必要となる調書の交付(受け渡し)について説明がなされ、必要な印紙(書記官に教えてもらえます)を買って交付申請をし、後日調書を郵送か手渡しで受領した後、年金事務所で年金分割の手続をすることになります。
かなり詳しく調停の手続を説明しましたが、おわかり頂けたでしょうか?
少しややこしい部分がありますし、調停自体は交渉の場なので、不安な方は一度弁護士に相談するだけでも安心するでしょう。
次回は社会保険事務所での年金分割の手続について説明いたします。