これまで、年金分割の話をしてまいりましたが、誤解を避ける意味で、財産分与と退職金の話をします。
まず、退職金といっても、その内容は退職給付金であったり、確定拠出年金のかたちで運用されていたり、色々あると思いますが、
これらが財産分与の対象になるかどうかは、実は明確なラインが決まっているわけではありません。
一般的には、数年後に退職するような場合は財産分与の対象になり、10年後、20年後の退職金については財産分与の対象とはしない、
という運用がなされているようですが、私の経験上、退職が10年以上先であっても、財産分与の対象とした事例も複数ありますので、何ともいえないというのが実情です。
ですから、退職金(確定拠出年金も含む)については、仮に退職が随分後であったとしても、財産分与の対象として議論されることがある、結局は個別事情による、ということだけは覚えておいて損はないと思います。
アガバンサス (神奈川県立フラワーセンター大船植物園)
さて、退職金が財産分与の対象となるとした場合、具体的にはどのような基準で財産分与がなされるのでしょうか。
これも一致した見解があるわけではありませんが、よく用いられているのは、別居時点で自己都合で退職したと仮定した場合の見込み退職金を基準に、それに婚姻期間の割合を掛け合わせた金額を分与対象財産とする、という運用です。
具体的に説明しますと、夫は22歳の時に就職、30歳で結婚し、40歳で離婚したとします。
わかりやすく説明するために、月数は考慮しないとすると、夫の独身期間は8年、婚姻期間は10年、全稼働期間は18年ですよね。
この場合、ざっくりいけば、割合は10年/18年=5/9になります。
そして、離婚時点(別居時点)での退職金が仮に900万円であるとすると、その5/9の500万円が財産分与の対象となる、というわけです。
もう一つの方法は、将来支給される退職金の額を現在の額に引き直した上で、婚姻期間の割合を掛け合わせた金額を分与対象財産とする手法です。
今までご説明してきた手法は、離婚時点(別居時点)での退職金が基準となりますが、今回の手法は、例えば60歳で退職が予定されているとして、その60歳時点での退職金の見込み額を前提に、これをライプニッツ係数を用いて現価を算出するなどして、現時点での支給額に引き直す、というところに特徴があります。
ライプニッツ係数とは、例えば現時点での100万円と10年後の100万円とは価値が異なるという考え方を前提に、その期間中の利息を控除するために編み出された数字です。
難しい言葉ですが、じつはライプニッツ係数とは例えば交通事故に基づく損害賠償請求ではよく用いられる数値であり、色々な書籍にその数値がのっていますので、計算自体は難しいことではありません。
このように退職金を財産分与の対象とするか否かについては、一義的にルールが定まっているわけではなく、その計算手法もまちまちです。
今回は代表的な手法を説明いたしましたが、興味がある方は弁護士に相談するなどして理解を深めてみるのもいいでしょう。