離婚事件と財産分与の続きです。
今回は生命保険の解約返戻金が離婚時にどのようにして分割されるかがテーマです。
1 財産分与の対象となるのは?
まず生命保険にはいわゆる掛け捨ての保険と積立式の終身保険など色々な種類がありますが、離婚時の財産分与で問題となるのは、積立式の終身保険のような解約返戻金が発生する保険です。
言い換えれば解約返戻金が発生する保険であれば、生命保険に限らず、損害保険も学資保険も財産分与の対象となり得ます。
そして財産分与の基準時は、別居時の解約返戻金相当額です。
ただしこれはあくまで婚姻期間中に新たに生命保険に入り、夫婦の給与から保険料を捻出していたような典型的な場合を前提としています。
つまり、結婚前から保険料を支払っていた場合や、他の親族が代わりに支払っていたような場合は当然には解約返戻金全額が財産分与の対象となるわけではない、ということになります。
2 結婚前から保険料を支払っていたような場合
それでは、結婚前から保険料を支払っていたような場合、保険の解約返戻金はどのように分割されるのでしょうか。
正解というものはないのですが、よく行われている方法は、別居時の解約返戻金の金額に、保険の払い込み期間を分母として、婚姻期間(厳密には別居時までの期間)を分子として計算した割合を掛け合わせて算出された金額を財産分与の基礎とする、というものです。
あるいは支払った保険料の割合で計算することもあります。
これは例えば、保険料の割引に期待して結婚前に一括で保険料を支払った場合などに用いられます。
退職金に近い分割方法ですが、ある程度ご年配の方の離婚事件になると、生命保険などの解約返戻金が多額に上る場合があり、かつご年配になると、新たに生命保険を契約し直すことが難しくなりますので、その清算は意外に困難を伴うことがあります。
3 視点を移動して冷静に事件を眺めるとうまくいくことがある
既に繰り返しお話ししているところでありますが、特に家事事件においては、ある1点にこだわってしまうと、結果として自分にとって有利な解決が望めないことがあります。
これを生命保険と財産分与について考えますと、一方当事者が生命保険の解約返戻金は財産分与されるべきだ、との考えに固執してしまったため、相手方の「新たに契約することは年齢的にも既往症的にも不可能だから、解約だけは勘弁してくれ」との主張との間でお互いの意見が硬直化し、それだけの理由で財産分与の話し合いが頓挫する、といった場合もあったりします。
しかし、このような場合でも、例えば他の預貯金の分与で調整するなどすれば、案外保険を解約せずともうまく財産分与ができたりする場合もあります。
私も常に自らに言い聞かせていることではありますが、「視点を移動して冷静に事件を眺めること」が大事です。