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「出るところに出て話合いましょう」
という捨て台詞があります。
この「出るところ」とは何処なのか、については諸説がありますが、争いのないところとしては裁判所があげられるでしょう。
この「裁判所」という場所は、私のような職業の人を除けば、一般的にはそう何回も行くところではありませんし、そもそも裁判所で行われる手続についても意外に知られていません。そのため、一般の方にとって、裁判所では「何をされるのか」という漠然とした不安感があるため、「出るところ」つまり「裁判所」をちらつかせるだけで立派な捨て台詞となり得るわけですね。
これは逆に言えば、「出るところ」ではどのようなルールで、どのような手続が行われるのか、上手に対処する方法は何か、といった前提知識を予め持っていれば、「裁判所」のある種の「得体の知れなさ」が払拭されますので、安心して「出るところ」という言葉を受け止めることができるわけです。
そこで今回は裁判所の手続の一つである「家事調停」その中でも件数が多い「離婚調停」について説明いたします。
なお、これからご説明する内容は、私がこれまで経験した内容を元にしておりますので、地域によっては運用であるとか、考え方などが異なるところがあるかもしれません。その点はご容赦ください。


1 離婚調停とは
さて、離婚調停ですが、正確には「夫婦関係調整調停」といいます。
この夫婦関係調整調停は、大きく分けて「夫婦関係調整調停(離婚)」と「夫婦関係調整調停(円満)」の2つに分けられます。
離婚を求めるのに、なんで「夫婦関係調整」なんだ、と思う方もいるかも知れませんが、調停はあくまでも話し合いの場ですので、話し合いの結果離婚をしないという結論に至る可能性もあります。
そのため、「夫婦関係調整」という中立的な言葉を用いるのです。
もちろん、それでは目的がはっきりしませんので、やはり最後には(離婚)(円満)という言葉を付記します。言葉の使い方からして気を使っていますね。


2 離婚調停での登場人物
次に離婚調停にはどのような人物が参加するのか、について説明します。
(1) 当事者
まず当然ですが、「当事者」です。当事者を更に分けると、「申立人」と「相手方」になります。
「申立人」とは離婚調停を申し立てた人、つまり離婚を求める人、「相手方」とは離婚を求められている人のことをいいます。よく裁判では「原告」「被告」という言葉が用いられますが、調停はあくまでも話し合いの場ですので、対立関係を煽るような言葉は使いません。ここでも気を遣っているわけですね。
(2) 家事審判官
「家事審判官」とはいわゆる裁判官のことです。
この「家事審判官」がこれからお話しする2名以上の「家事調停委員」を指定したうえで「調停委員会」を組織します。
ただ、家事審判官は、大変お忙しいので、例外的な場合を除いては調停に実際に参加して当事者から話を聞くことはありません(ただ話が膠着(こうちゃく)したような場合や、調停内容を最終的に調整する目的で話し合いに参加することはあります)。
また「調停委員会」といっても、国会の「予算委員会」などといったかしこまった会議体ではありません。審判官と調停委員で構成されたチームの呼称くらいに思って頂いて結構です。
(3)家事調停委員
次に「家事調停委員」ですが、この方々こそが、家事調停での主要なプレーヤーの一人になります。
調停委員は、非常勤の裁判所職員で、弁護士の資格を有する者、紛争の解決に有益な専門的知識・経験を有する者から選任される専門調停委員のほか、社会生活の上で豊富な知識・経験を有する者で、人格・識見の高い者の中から選任される調停委員もおります。
このうち、事案が複雑な事件では弁護士の調停委員や専門調停委員が選任されることもありますが、離婚調停では専門調停委員が選任されることは少なく、一般には、「人格・識見の高い者」の中から選ばれた方が調停委員に選任されます。
離婚調停に関わる調停委員は概ね40歳くらいから60歳くらいまでの方が中心で、男女それぞれ1名ずついます。
元の、あるいは現在の職業については詳しく聞くことはないのですが、例えば公務員を長年やっていたり、学校の先生であったり、様々です。
私の勝手な感想で恐縮ですが、調停委員の先生は、さすが人生経験が豊富だなと思わせる常識的な方が多いとの印象を受けます。
むしろ、私自身、調停委員に対して何らかの不満が生じた場合は、一度自分の調停での態度などを自ら検証し、問題がないか確認するように心がけているくらいです。
まあ確かに調停委員の先生の中には、相手方の話をただ伝えているだけという方もおられますが、それはそれで中立的であるともいえますので、仕方がない部分があります。
最終的には相性の問題であると考えます。
このように、私は家事調停委員の立場や役割をとても重視しておりますが、それはひとえに家事調停の成否を決めるのは調停委員であると考えるからです。
調停委員とのやりとり、話し合いの進め方については次回以降のコラムで説明いたします。
(4) 代理人
代理人とは当事者に代わり、当事者とともに家事調停にて話し合いを行う立場の者です。
我が国では弁護士だけが家事調停の代理人になることができます。
よく家事調停で親御さんが付き添ってきて、一緒に調停室に入ろうとする方がおられますが、例え親族でも当事者でない限り調停室に入ることはできません。
もちろん司法書士の先生も行政書士の先生も調停室に入ることはできません。
つまり家事調停の代理人は弁護士だけがなれますので、その職責は重いです。
さて家事調停の代理人の職務は、家事調停の中で紛争の中心点を早期に把握し、話し合いのきっかけを探り出し、互いに妥協できるポイントを見据えたうえで、依頼者のために調停委員その他の関係当事者と折衝し、妥当な結論を導くことです。
言葉にすれば簡単ですが、あくまでも最終目標は依頼者の意思を実現することですから、裁判などと異なり、単純な勝ち負けだけでは割り切れない要素が沢山あります。
私の感想としては、家事調停の代理人にはそれなりの経験が必要であると感じます。
(5) 家庭裁判所調査官
以上のとおり、調停の参加者は、当事者、審判官、調停委員、代理人弁護士などがおりますが、その他に家庭裁判所調査官も重要な立場の方です。
家庭裁判所調査官は、調停期日に出席して当事者の解決の糸口を探り、調整的な役割を果たすことが求められている専門的公務員です。
代理人と職務が一部かぶりますが、調査官は中立的な立場である点、心理学、社会学、教育学、社会福祉学等の人間関係諸科学の専門的知識を有している点で、法律の専門家であり代理人である弁護士と役割を異にしております。
今回は、主に調停の登場人物について説明いたしましたが、次回は、調停手続について、どのようなやりとりがなされるのか、順を追って説明いたします。