前回は離婚事件と親権について、ある程度争いの背景にまで遡って説明いたしました。
そこで、今回は、具体的に親権者の指定にあたってはどのような事情に着目がされるのかについて説明いたします。
これは、母親側から言えば親権を着実に認めて貰うための防衛ラインであり、父親側からいえば、親権を逆に認めて貰うための具体的な攻撃ポイントまたはアピールポイントということになります。
さて、調停や裁判の中で親権が争われることはよくありますが、その際、裁判所から、双方の当事者に対して、「陳述書」の提出を求められることがあります。
この陳述書とは、要するに、親の子供に対する実際の監護の状況や監護の意思を確認するためのものですが、それでは抽象的で何を書いて良いのかわかりませんよね。
そこで、裁判所は事前に「陳述書の記載項目及び提出資料」(横浜家庭裁判所)という資料を当事者に渡した上で、実際に監護している親と監護していない親のそれぞれについて、「こういった内容について説明して下さい」、といった指示をするのです。
例えば実際に監護している親が書く陳述書には、具体的には以下の項目についての説明を求められます。
1 監護親の生活状況
・生活歴(学歴、職歴、病歴、家庭生活や社会生活における主な出来事等)
・職業、勤務先、勤務時間及び仕事の内容等
・平日及び休日の生活スケジュール
等
2 経済状況
・収入〈資料:源泉徴収票、確定申告書など〉
3 子の生活状況
・子の生活歴及び監護状況(監護補助態勢も含む。)
・子の発育状況及び監護状況〈資料:母子健康手帳など〉
等
4 子の監護方針
・今後の監護方針
・親権者となった場合の監護状況の変更の有無及びその具体的内容
等
5 その他参考となる資料
以上抜粋であり、実際にはもう少し項目がありますが、いずれにしても、ここで記載されている項目こそが親権の判断に際して重視される事項ということになりますから、実際に子どもを監護している親であれば、これらの項目で問題点を指摘されないように、時に第三者の力を借りるなどして養育環境の整備を行っていくことが重要となります。
他方、実際には監護をしていない親については、これとは別に「子との交流の状況」や「予定している監護環境及び監護態勢」「監護補助者の有無及びその氏名、年齢、住所」「親権者となった場合の非親権者と子との交流についての意向」などの記載が求められます。
監護をしていない親が親権を獲得するためには、これらの事項につき、いかに具体的に、説得的に説明ができるかが最初の関門といえるでしょう。
以上のとおり、親権者の指定というのは、子どもの養育に沿う親を選定する側面から、かなり具体的な事情についてまで聞かれることがあります。
今回、陳述書で記載を求められる全ての項目について取り上げることはできませんでしたが、それぞれについて何に着眼して陳述書を作成すればよいかは、弁護士それぞれにノウハウがあります。
慎重を期するのであれば、一度弁護士にご相談されることも一つの方法でしょう。