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以前「弁護士の見分け方」と称して、リスクをあえて説明できる弁護士は誠実な弁護士であるという話をしましたが、今回は、「素養」にポイントを絞って弁護士の見分け方を説明いたします。
皆さんは弁護士の素養というと、おそらく法律の素養をイメージされる方が多いかと思いますが、ある意味、法律の解釈や判例の理解といった「法律の素養」については、弁護士の資格を持っている人であれば、まず問題のないレベルに達しているのではないかと思います。
弁護士になるためには、色々なハードルがあって、例えば司法試験などで法律の素養がない方は、そこでふるい落とされてしまうわけですね。

ただ、法律的な素養を離れた一般的な素養ということになると、その差は歴然としてきます。
そして、この一般的な素養に秀でた弁護士であるか否かを見極めることこそが弁護士の見分け方の第二のポイントになります。
イメージがわきづらいと思いますので、一例を挙げますと、例えば交通事故の被害者が弁護士に対して相談を求めてきたとします。
その内容は、交通事故で怪我をしたので、損害賠償請求をしたいというものですが、ここで弁護士が民法709条の不法行為の説明をしたり、自賠法3条の運行共用者責任の説明をするのはある意味当然です。なぜなら、これは法律の問題だからです。
ところが、交通事故には単なる法律問題だけでは処理ができない問題が沢山あります。
例えば、治療の必要性を判断したり、後遺障害の認定の妥当性を判断したりするためには、ある程度の医学的な知識が必要となりますし、過失相殺(平たく言えば損害にあたって双方の落ち度を考慮する考え方)を判断するにあたっては、自動車の挙動などについて精通している必要があります。
そのような知識がなければ、今後の見通しなどについて説明することはできません。
離婚についても同様で、法定離婚原因などの説明はある意味弁護士であれば誰でもできますが、例えば不動産を財産分与した場合の税金の問題などは重要な問題なのに、知識として知らない弁護士も中にはいます。
また離婚調停事件などでは特にそうですが、そこで活動するプレーヤー(申立人本人、相手方本人、代理人弁護士、調停委員、審判官、調査官)の立場を深い洞察力をもって理解するためには、心理学的な素養が必須の要件となります。
このように、弁護士は単なる法律を語るだけではなく、幅広い素養を前提として、広い視野で問題の本質を理解し、これを説明する能力が必要なのです。
ちなみに、現職の裁判官も「民事訴訟実務と制度の焦点」(判例タイムズ社)で、「幅広い教養に支えられた視野の広さ、人間性に対する洞察力、社会現象に対する理解力等」が、「裁判官のみならず、研究者をも含めた法律家全般に求められる識見といってよいであろう」と述べております。
では、弁護士には一般的な幅広い素養が必要であるとして、現実に法律相談をした際、どの点に着目して弁護士の素養の有無を見極めればよいのでしょうか。
多少比喩的ですが、「相談者との会話がスムーズにつながる弁護士」は素養について最初のハードルをクリアしていると言えるでしょう。
少し具体的に説明しますと、弁護士は例えば法律相談に臨むにあたり、事件の背景などもできるだけ理解するように努力をしますが、そのためには、相談者の説明の字面をただ負うだけでは駄目で、その言葉の本質的な意味を理解しようとします。
そして言葉の本質的な意味を理解することで、はじめて、相談者に対して次の会話につながる質問を投げかけることができるわけです。
なお、言葉の本質的な意味を理解するためには、その言葉が描く事情に対する深い知識及び洞察力が必要です。
例えば、三浦半島の葉山の方が相続の問題について相談に来られたとしましょう。この時、弁護士が三浦半島の地勢や時価などについて前提となる素養がないとしたら、例えば法定相続分は何分の1であるとか、特別受益、寄与分と行った説明をするだけになってしまう可能性がありますよね。
他方例えば葉山のこの辺りは崖地が多くて、売却しようとしても買い手がつかない可能性があるな、といった知識があれば、それを前提として妥当な解決方法を提案することが可能になるわけです。
そしてそういう説明ができるということは、相談者との会話がスムーズにつながっていくことになるわけですね。
つまり弁護士と相談者の会話がスムーズにつながるということは、弁護士の深い素養の表れであるともいえるわけです。