今日は「湯守 玉林房」のお話しです。
玉林房は、福島県双葉郡大熊町(おおくままち)の少し山あいにある、玉の湯温泉の旅館です。
「日本秘湯を守る会」の会員でもあり(2013年5月現在)、私は、これまで山間の渓流沿いにたたずむ小さなこの旅館に魅せられて、何度か足を運んでいました。
特筆すべき点は沢山ありますが、例えば客室は全て渓流に面していて、部屋の外に設けられているウッドテラスからは、いかにもヤマメなどがいそうな川の流れを眺めることができました。
客室の多くには半露天風呂が併設されていて、渓流の流れを見ながらお湯に浸かることができました。
玉の湯温泉は、この玉林房のほかは、「玉の湯旅館 上の元湯」があるくらいで、非常にこぢんまりとしたもので、玉林房は事実上一軒宿といってもよい場所にありました。
そのため、宿の中は極めて静か。
日々の暮らしで生ずるストレスを癒やすには、このような静かな環境が何より薬になります。
建物は、新しいものですが、おそらく地元の方と思われる職人の銘が階段脇に掲げられており、この建物に対する思いが込められておりました。建物の意匠も地形を踏まえた凝った造りであり、限られた予算の中で、できる限りよいものを造ろうという宿のオーナーの気概を感じさせるものでした。
食事はオリジナリティー溢れるもので、宿の女将さんの手作りでした。
特に野菜のおいしさは特筆もので、素材の味を生かした繊細な料理の数々は、いわゆる温泉旅館の食事とは異なる新しい風とも言えるものでした。
宿の運営は私の見る限り家族を基本としており、若夫婦が部屋への案内もろもろの雑事を全てこなしておりました。この湯の守 玉林房は、東日本大震災に伴う福島第一原発事故の影響により、現在休館を余儀なくされております。
私も、事故直後から玉林房のことが気になっていて、何度か宿のHPを確認し、事態を見守っておりましたが、幸いオーナーのご家族は無事避難できたとのことで、一安心したことを記憶しております。
しかしいずれにしても、この宿は、営業を再開できないままです。
双葉ばら園と同様に、福島第一原発事故はこのような罪もない方々の夢を奪ってしまったことになります。
このような事態を前に、私はただ、事実を伝えることしかできていません。